第13話 渋滞もある

 三十分の見込みが機材のトラブルで二時間遅れ、係留料払わねぇぞコラ! とブチ切れたフリをしたら、所定の料金なった。

「うむ、ゴネてみるものだな。ナイス」

 テレーザが笑みを浮かべ。

「最後は気合いだよ!」

 私は笑った。

 船は港の牽引装置の力を借りてゆっくりスポットから引き出され、クルッと一回転をして正面を向いた。

「さて、行こう!」

 私はスロットルレバーに手を掛け、テレーザにぶん殴られた。

「フルオートだ、馬鹿者!」

「なんでよ!」

「うるせぇ、腐ったもやし野郎!」

「なんだとこの、クソ踏んだうんこみたいに臭ぇくせに!」

  …まあ、私たちは無事に出港した。


「このまま、航路348を低速で進んで下さい。二分です」

 ジルケの声が聞こえ、私はコンソールパネルのキーを叩いた。

「うん、渋滞だな他に航路は?」

 テレーザがチョコバーを囓りながら、航法精密レーダーウィンドウをみならが呟いた。

「ありません。揉まれましょう」

 ジルケが笑った。

「あーあ、ついてないね」

 私は笑った。

「まあ、こんなもんだ。ポーカーでもやるか?」

 テレーザが笑った。

「馬鹿野郎、航行中だ!」

 私は笑った。

 船はゆっくり進み、貨物船が大挙して並ぶ最後尾に着いた。

「ロジーナ、撃っちゃダメだよ!」

 私はコミュニケーターで砲手室のロジーナに声をかけた。

「…頭にカボチャでも落としましょうか。ちょうど、磨き中です」

 ロジーナが笑った。

「クラクションでも鳴らしてみる?」

「馬鹿野郎、ねぇわ!」

 私の冗談にテレーザが笑った。

「じゃあ、パッシングして!」

『はい、分かりました。全航行灯を使用します』

 ユイが笑い、本当にやった…。

「馬鹿野郎、本当にやるな!」

 テレーザが笑った。

「ったく、もう。さてと、いつ着くかねぇ。ここはそういう航路だから」

 私は苦笑した。


 普通にいけば三十五分の道のりだったが、たっぷり数時間かけて港に到着したが、今度は空きスポットがないと、また足止めを食った。

「ああ、もう。馬鹿野郎!」

 テレーザが頭をガリガリ掻いて、私にチョコバーを投げてきた。

「はいはい、落ち着いて。私は魔法書でも読むか」

 私は足下に収納してある魔法書を手に取り、空間ポケットから研究ノートを取りだし、ポテトパイを作る魔法を考えはじめた。

「うーん…カボチャも加えるか。あとは人参とゴボウとナスと…」

 …酷い。

「あーあ。また馬鹿野郎な魔法を考えているな」

 テレーザが笑った。

「…そうでもない。よし、出来た。ドームに行ってくる」

 私はシートから立ち上がり、トラムに乗ってカーゴベイに向かった。


 私は物庫に設置されているドームに移動し、研究ノートを開いてさっき作った呪文を使ってみた。

 すると、ドーム内なのに魔法が発動してしまい、派手にぶっ壊して金ピカのカボチャが積み上がったような大きな『人形』が出来上がった。

「おぎょ!?」

 私はさすがに驚いた。

「お、おかしい。攻撃魔法になるはずなのに…。この辺を抉って…」

 私は慌てて研究ノートにガリガリ書きはじめた。

「…なるほど、分からん。それが結論だ」

 私は笑みを浮かべた。

「それにしても、これはどうしたら…。偶発的に出来た消す呪文なんてないし、このままおいておくしかないよ。酷いよ。あんまりだよ。このポンコツドーム!」

 私はドームの破片をぶん投げた。

「まあ、いいや。これを、カボゴーレムと名付けよう。カボチャゴーレムじゃそのままだからね」

 謎ではあったが逆に燃える。

 私はカボゴーレムの詳細を調べては、研究ノートに書きはじめた。

「あっ、そういえばリズどうしてるかな。ナンナケットとかいう変な大型船の客席乗員だったはずだけど、これはとりあえずこのままにして、たまには連絡してみよう」

 私はコミュニケータをユイに繋いだ。

『はい、どうされました?』

「ナンナケット号の居場所分かる。分かるなら、コンタクト取って」

『はい、真後ろの船です』

 ユイが小さく笑い声を上げた。

「ま、真後ろ。あんの野郎!」

 私は笑った。

『リズという方からメッセージが届いています。テメェ、やっと見つけたぞ!』

「…よし、勝負だね。ジャンケンで。ユイ、コミュケータ経由でバカリズを呼び出して!」

『承知しました…回線が混雑しています。緊急信号受信。ナンナケット号です。エンジン部火災。消火システムダウン。リズは後回しで、救援にいきましょう』

「あのボロ船…。よし、みんないくよ。コミュニケーターで集まった全員に伝えて」

 私はカボゴーレムに手を当て、呪文を唱えた。

 カボゴーレムがゆっくり動き、気密扉を開いてカーゴベイに下りた。

 私はそのあとに続いて、気密扉を閉めてカーゴベイに下りた。

 特に問題はなかったので、私は操縦室のテレーザに連絡を取った。

「ちょい逆噴射。バック!」

『分かっている。ナンナケットの横に付けるぞ』

 コミュニケーターの画面にテレーザが笑みを浮かべた。

「よろしく。あっ、来た来た」

 私は手を振った。

 トラムに乗ってきたのは、砲手席のロジーナと機関士のテアだった。

「ロジーナ、アレやろう。ゴーレムの制御でどのみち出ないといけないから」

「はい、アレですね」

 ロジーナが笑みを浮かべた。

「久々ですね」

 ロジーナが笑みを浮かべ、壁に下がっている宇宙服を手に取った。

「急いで!」

 私はゴワゴワの分厚い宇宙服を着込み、ヘルメットを被った。

 背中に酸素タンクとジェットパックを背負い、全員が装着した事を確認してから、私はユイにカーゴベイを減圧するように連絡した。

『承知しました。減圧を開始します。終わり次第、カーゴハッチはオープンでよろしいですか?』

 ユイの問いかけに、私は了承の返事をした。

 程なく減圧が終わり、カーゴハッチが開くと、私は呪文を唱えて先にカボゴーレムを船外に押し出した。

「えっと…」

 私はカボゴーレムを操作して、ナンナケット号に向かわせた。

『ああ、エンジン四発やっちゃったね。こりゃ航行不能だ。えっと、炎上具合は…』

 テアが呟いた。

 それとほぼ同時に、ヘルメット内のスピーカーにキンキン声が響いた。

『オメガ・ブラスト!』

 勢いがいい女の子…リズの声が聞こえ、ナンナケット号の燻っていたエンジンが全てぶっ飛んだ。

「さらに爆発したかもしれないじゃん。行動が遅い!」

 私は笑った。

 ちなみに、攻撃魔法禁制の宇宙ではあるが、こういった非常事態には、最低限の使用は認めらている。

『馬鹿野郎、よりによって虫歯をガリガリやってる時だったからだ!』

「うるせぇ、虫歯菌ごと燃えろ!」

 私は笑った。


 私はカボゴーレムを使って、むき出しになったナンナケット号の機関室の消火作業を始めた。

 もっとも、即製のゴーレムなので消火器具などなく、踏み潰していくという単純な方法だった。

「よし、いくか。みんな、着いてきて」

 私は二人に伝えてから、ワイヤーで固定された満載のコンテナの隙間をぬって、カーゴベイの隅にある専用のフックに命綱を掛けを強く引いて強度を確認してから、フヨフヨと宇宙空間に飛び出た。

「みんな、いる?」

『私とテアはローザの宇宙服に命綱を繋いで、数珠つなぎになっています。問題ありません』

 スピーカー越しのロジーナの声に満足し、私は半壊どころか完全にぶっ飛んだナンナケット号の機関室に足をつけた。

「こりゃ酷いな。よく船ごとぶっ飛ばなかったな…」

 私は一息吐いて、軽く頭を振って機関室の扉に向かった。

「おーい、リズ。開けてくれ!」

『あいよ。エアロックの扉がブチ歪んじゃって…』

 ヘルメット内にリズの声が聞こえ、私たちはしばらく待つ事にした。

 やがて、扉が吹っ飛び、宇宙服を着込んだリズが漂ってきた。

 『ふぅ、このボロ船。まあ、いいや。ローザの宇宙服に命綱を繋げて…よし』

 ヘルメットのバイザー越しに、黒髪短髪のリズが笑みを浮かべた。


 人数が多かったのだろう。

 私たちよりやや遅れて宇宙服姿の医務室チームが到着したが、当初の予想通りナンナケット号機関室の生存者はゼロだった。

 幸い客室や貨物室には被害はなく、そのまま最寄りの港まで牽引船で曳航される事になった。

 なお、まだ火災が収まっていないので、カボゴーレムはそのまま居残りさせることにした。

 そして、残ったものは…。

「アハハ、よろしく!」

 …リズだった。

 まあ、あの損傷では廃船間違いなしなので、船に乗りたいというコイツの気持ちは分かる。

 しかし、魔法使いとしての腕はともかく、ナンナケット号では客室乗務員をしていたリズに適したポジションがない。

 かといって、適当にブラブラさせるわけにもいかないので、私はいつ使うか分からない船室の清掃やトラムなどの清掃などの、地味だが大事な裏方仕事を任せることにした。

「アハハ、それいいね!」

 リズはそれを快諾し、基本的には自室待機となった。

「やれやれ、リズと同じ船に乗るとはね。宇宙で攻撃魔法を使わなきゃいいけど」

 私は笑みを浮かべた。

 こうして、私たちはジェットパックを駆使して、自分の船に戻った。


 リズとはどこだったかの港で出会って意気投合し、それ以来の付き合いだ。

 特徴は私以上かもしれない魔法の使い手であり…キンキン声でやたらうるさい事だ。

 これでお客さんの相手をしていたとはにわかに信じられないが、なかなか気配りが出来て器用な事は知っていた。

「みんな持ち場に戻ったから、簡単に船内案内するよ」

 あえて最後に移動する事にした私は、リズを引き連れて船内をグルッと回る事にした。

「へぇ、気合い入ったエンジンだし、整備もしているみたいだし、これなら大丈夫そうだ。ナンナケット号なんて、整備もろくにしてなかったから」

 リズが笑った。

「まあ、気合いはいれたよ。今いるメンツだけで、整備は足りているしね。さすが軍用エンジンだけあって頑丈だし」

 私は笑った。

 二人でエンジンを見ながら笑っていると、ツナギ姿のカボが近寄ってきた。

「取りまとめ役のカボです。よろしくお願いします」

 カボが差し出した右手を左手で受け、リナは笑みを浮かべた。

「切り傷、擦過痕多数、火傷も多数。まさに、ベテラン機関士だね」

 リズが笑った。

「そうでもないです。あっ、記念にこれを差し上げます。サイズは…」

 カボは物置場から白いツナギを取って、リズに手渡した。

「こりゃどうも。作業服として使うよ。この制服じゃなにも出来ないから」

 リズが着ている服は、紺をベースにしたパンツスーツという、いかにも客船の乗員という感じだった。

「まあ、それ似合っているけどね…って、なんでここで脱ぐ!?」

「うん、着替え!」

 笑顔のリズの顔面に、カボのグーパンチがめり込んだ。

「あちらの更衣室を使って下さい。ついでにシャワーもあります。いくら女所帯とはいえ、ダメです!」

「…分かった」

 ちょっと残念そうな様子で、リズが更衣室に消えていった。

「やれやれ…」

 私は苦笑した。

 リズのホームに困ったが、居住区の空いている部屋を使ってもらう事にした。

「さてと、まずはリズの居場所だね。大丈夫、部屋はたくさん開いてるから」

 私はトラムで居住区に移動して、部屋に案内した。

「ここを使って。貨物船だから素っ気ないけど、装飾は自由だから」

「へぇ、いい部屋じゃん。ナンナケットより広い!」

 リズが笑った。

「細かい事はあとでね。渋滞に揉まれている最中だから!」

 私は部屋のカードキーをリズに渡し、トラムで操縦室に向かった。


「おっ、帰ってきたな。まだ渋滞中だ」

 暇そうにチョコバーを囓りながら、テレーザが呟いた。

「そっか、ジルケ。なんとか回避できない?」

「はい、ここは軍の演習場が近いので、この航路を通るしかありません」

 ジルケがペンで頭を掻きながら、小さくため息を吐いた。

 目的地のプレグラスまでは通常なら二十分ほどだが、鉱石輸送航路と通称されるくらい貨物船で混み合う。

 それにしても、この混雑は異常だった。

「テレーザ、なにか情報ある?」

 私は無線のインカムをつけ、テレーザに聞いた。

「うん、無線通信が交錯しているが、大体はストレス発散の怒鳴り声だな。無駄なことだ」

 テレーザが苦笑した。

「それってマズいと思うけどね。海賊を呼び寄せちゃうから」

 私は苦笑した。

 サブエンジンを最小出力で時折吹かしながら、渋滞に揉まれることしばし。

 航法士席でジルケが声を上げた。

「渋滞の列側方から大規模船団が接近中。識別コードを発信しないところから、海賊と考えられます」

「ほら、やっぱり」

 私はコミュニケーターを操作して、操縦室のロジーナに繋いだ。

「ロジーナ、仕事だよ!」

『分かっています。二分で片が付くでしょう』

 ロジーナの声と共に正面スクリーンの照度が下がり、コンソールパネルの画面に『主砲作動中』というメッセージが表示された」

 正面スクリーンには表示されないが、無数の光線が飛んだはずで、自動的に視点が移された正面スクリーンで、船の側方で派手な爆光が上がるのが見えた。

「おっと…」

 向こうが撃ったレーザーと思しきものが、船が纏った結界魔法にはじけ飛ぶ微かな振動を感じた。

『大物は殲滅しましたが、いまだに現役だった様子の戦闘機は追いきれません。副砲とミサイルで対応します』

 コミュニケーターにロジーナの声が飛び込んできた。

「戦闘機って、とっくにお蔵入りしてるガラクタじゃん。また、物持ちのいいことで」

 私は苦笑して、走査レンジが短い航法精密レーダーでも確認出来るほど、急接近してきた敵機の姿を確認した。

 サメの胸ビレの中はミサイルランチャーになっていて、同時に千二百八十目標を攻撃できる性能がある。

 武装関連はロジーナを長とした砲手室のメンツに操作権限を集中させているため、操縦室でコントロールする時は、よほどの非常事態だ。

「ミサイルか。こっちも前時代的だな」

 小さく笑って、テレーザがチョコバーを囓った。

「まあ、こういう時は役に立つよ。馬鹿野郎な兵器じゃ小物は狙えないからね」

 私は苦笑した。

 程なく、敵の攻撃を受けたというアラームが鳴ったが、ミサイルの発射音や副砲の射撃やらで全滅したのだろう。

 アラームが鳴り止んで少し経つと、コミュニケーターのウィンドウに映ったロジーナが笑みを浮かべた。

『目標殲滅。通常モードへ移行します』

「お疲れ!」

 私は笑い、つくづくこの船は貨物船じゃないかも…などと思ったりした。

『各船から謝辞が届いています。少なくとも、被害を受けた船はありません』

 ユイが小さく笑った。

「この船に積まれているオリハルコンが狙いか、一発大きいのを撃ったからか、ここを集中攻撃か…。まあ、どっちにしても無事だから良かったよ」

 私は笑みを浮かべたのだった。

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