第24話
優介は私を待っていたようでベッドの上に座って、こちらを見ている。
「美穂、そっちに座って」
と、自分の目の前にあるベッドを指差す。
私は言われた通り、指差されたベッドの方へと行き、向かい合わせに座った。
「何で薄暗くしてるの?」
「この方が、雰囲気でると思って」
「雰囲気ね……」
「美穂、目を瞑って」
え? もう?
「何で?」
「いいから」
「――分かった」
恐る恐る目を閉じると、「これでやっと解放される」
と、優介がボソッと呟いた。
解放? 何のこと?
カパッと何かが開く音がして、優介が私の左腕を掴む。
――このとき、今から優介が何をしようとしているのか分かってしまう。
だから優介、湯船に浸かるかって気にしていたのか。
私の左の薬指にスッと指輪が通っていくのが分かる。
サイズはちょっと緩いが問題なさそうだ。
ギリギリでネタバレはしてしまったものの、凄く嬉しい。
今はもう、この言葉しか出てこない。
「目を開けて良いよ」
私はパッと目を開け、直ぐに左手を見る。
そこにはシンプルのデザインだが、光輝く婚約指輪がはめられていた。
「遅くなっちゃったけど、その……俺と結婚して欲しい」
優介は照れ臭そうな表情を浮かべ、言葉を詰まらせながらも、ハッキリとそう言ってくれた。
私は抑えきれない想いをぶつけるかのように、優介に飛び付く。
「優介、ありがとう! 凄く嬉しいよ!」
「返事は?」
「もう、分かってるでしょ! もちろんOKだよ」
「良かった……苦労した甲斐があったよ」
私は優介から離れ、自分のベッドに戻ると「苦労?」
「美穂は過去が見えちゃうだろ? サプライズするため、触れない様にするの大変だったんだよ」
「じゃあ、パレードの時のは……?」
「うん、バレたかと思ってヒヤッとした。本当はバレても良いから、そのまま手を繋いでしまおうかと葛藤してたんだぜ」
「優介……」
じゃあ優介があの時、私の能力を確認していたのは、その為?
だったらあの時、もうちょいと言ったのは――。
「もしかしてずっと前から、この事を計画していたの?」
「うん! 美穂がせっかちさんだから、食事に誘った時、何て答えようか、ちょう焦ったわ」
「あ、ごめん……」
優介が優しく微笑む。
「大丈夫だよ。本当はもっと早く結婚したかったんだ。でも準備をしっかりしてからと、ずっと我慢をしていた」
「準備?」
「うん。うちの両親さ、凄く若い時に結婚したんだ。そのせいもあってお金もなくて、ゆとりも持てなかったんだろうな。だから最終的にあぁなった。俺……美穂とはそんな道を辿りたくない。そう思って、必死に頑張ったんだ。それで――」
うつむく優介の頬を私は手を伸ばしソッと触れる。
本当に優介が苦労をしてきてくれた過去が視えてきて、自分勝手な私に嫌気がさした。
「そうだったの……気づいてあげられなくて、ごめんね」
「大丈夫だよ」
どうやら、子供だったのは私だったみたいだ。
優介はちゃんと私との将来を見据えてくれていた。
それがただただ嬉しくて、必死に嬉し涙を堪える。
「優介」
「なに?」
優介が顔を上げ、私を見つめる。
「ありがとう。これからは夫婦になる道を歩んで行くんだから、一人で抱え込まないで辛い事も悲しい事も、二人で分かち合っていこうね」
優介は優しく微笑み「そうだね」
と、答えた。
「優介」
「ん?」
私はソッと優介に寄り添い、口付けを交わす。
「大好き」
「俺もだよ、美穂」
人生というのは、そう甘くはない。
これから先、きっといくつもの困難にぶち当たり、お互い気持ちが離れてしまう事だって、きっとある――。
だからといって、恐れることはない。
そんな時は過去を思い出して、更に強い絆として繋いでいけば良いのだ。
お互いがお互いを思いやる為、これからもずっと過去に触れていきたい。
私は優介の胸に顔を埋めながらそう思った。
ただし、記念日に近い日は除いてね!
私は触れた人の過去が視える 若葉結実(わかば ゆいみ) @nizyuuzinkaku
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