第21話

 時間が経ったせいか、気持ちが少し落ち着く。

 私はサービスで出されたコーヒーを混ぜ終えると、スプーンを皿に置いた。


「――なぁ、美穂。何で美穂は過去が分かるんだ?」

「はい?」


 なぜ今、それを聞く?

 私の気持ちはまだ落ち着いていなかったようで、イラッとしてしまう。


「あ、いや。あの時、聞いていなかったなぁ……って思って」

 と、優介は私の怒りを感じ取ったのか、オドオドしながら、そう答えた。


「ふー……」


 怒った所で、何かが解決する訳ではない。

 当たり散らしても優介が可哀想だし、仕方ない。

 今日は諦めるか。


「正直、分からない。完璧に視える様になったのは中3の後半だけど、本当はもっと前からその兆候はあったの」

「へぇ……どんな?」

「例えば御爺ちゃんの忘れ物あっちにあったとか、お母さんがこう言っていたとか、知らないはずなのに触った瞬間にピンッと分かって、良い当てることが出来たのよね」


 優介はコーヒーカップを手に取り「そいつは凄いな」


「私が勝手に思っているだけなんだけど、私って兄がいるじゃない? 兄に負けない様に褒められるには、どうすれば良いんだろ? って家族を監視して覚えていたから、そういう経験が身に付くキッカケになったのかな? って思ってる」


 優介はコーヒーをゴクッと飲み込むと、「なるほどな」

 と、言って、テーブルにコーヒーカップを置いた。


「じゃあさ、触れたら絶対に見えちゃうってこと?」

「そうね。視ないってことを意識した事無いから、本当は出来るのかもしれないけど、今は触ったら視えちゃうわね」

「そうか……」


 ん? 待てよ。

 今の質問って――。


「ねぇ、優介。なにか触れて欲しくない事でもあるの?」

「え? あ、いや、そんな事ないよ」


 心なしか動揺しているように思える。


「そう?」

「うん、何もない」

「――分かった」


 もしかしたら優介が結婚を躊躇っている理由って、私の能力にあるんじゃ……。


「美穂。この次、どうする?」


 どうしようか……どうも今日の私は気持ちが不安定だ。

 本当はまだ一緒に居たい。

 だけどこれ以上、一緒にいたら傷つけてしまうかもしれない。


「――ごめん。今日はもう帰る」

「え、もう?」


「うん、ごめんね。またデートに誘ってね」

 と、私はバッグを手に取ると立ち上がる。

 優介はそれを寂しそうな表情で見つめ「あ、うん」


「お金は先に払っておくから、バイバイ」

 

 私は手を振ると、直ぐにレジの方へと向かった。


 ※※※


 その日の夜。

 お風呂から出て自分の部屋に行くと、机の上に置いてあるスマホが光っているのを見つける。

 優介かな? 

 私は机に近づくとスマホを手に取り、メールを開く。


『今日はごめん。何か嫌なことでも言ったかな?』

 と、内容は優介から謝罪のメールだった。

 悪いのは私なのに……申し訳ない気持ちで胸がチクッと痛む。


『そんな事、無いよ。私の方こそせっかく誘ってくれたのに直ぐに帰ったりして、ごめんね』

 と、私は直ぐに返事を返した。


 ――少しして『それなら良かった。大丈夫だよ。あのさ、今度の土日、空いてるかな? 来週、誕生日だろ? お祝いしたいんだ』

 と、返事がくる。


 ちゃんと覚えていてくれたんだ……確か何も無かったはず。

 念のため壁にかかっているカレンダーを確認する――。

 うん、大丈夫そうね。


『ありがとう、大丈夫だよ。楽しみにしているね』

 

 私が返事を返すと『分かった、俺も楽しみにしてる』

 と、返事が返ってくる。

 私はスマホを机に置くと、ベッドにゴロンっと横になった。

 

「今度こそ、デートを楽しめると良いな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る