第20話
あれから10年の月日が流れる。
ミナミは社会人になっても続けていたバスケットのサークルで知り合った年上男性と結婚をし、奈緒と良太君も4年の交際を経て、無事に結婚をした。
もうすぐ27歳……なのに残されているのは私のみだ。
「はぁ……」
私はベッドの上で、転校前に二人で撮った写真を見つめ溜め息をつく。
感情とは不思議なものだ。
優介が転校して……大学に行って……遠く離れて会えない日々が続いても好きという感情は薄れなかったのに、地元に戻ってきて会えるようになった今の方が薄れてきてしまった気がする。
それは離れているから一生懸命、優介の気持ちを繋ぎ止めようとしていたからだろうか?
それとも、これがマンネリというやつなのだろうか?
――いや、単なる私が我儘なだけなのかもしれない。
高校時代はあんなに素敵な出来事があったのに、何でこんな気持ちになるのだろ?
もう……初めて過ぎて良く分からない。
「優介……いつまで待たせるの? 待っているんだぞ」
優介の顔をツンッと突くと、スマホの着信音が鳴る。
私は写真を机に置くと、机の上にあったスマホを手に取った。
――優介か。
『今週の日曜日、空いてる? 飯でも食べに行こうぜ』
このタイミングで、このメール……もしかしたらと期待で胸が膨らむ。
私はすぐさま『いいよ』
と、打って返信した。
『じゃあ、いつもの場所で待ち合わせして、その日に食べたい所を決めようか?』
『そうね』
と、メールのやりとりをする。
最後に『うん、私も楽しみ』
と、返信すると、スマホを机に置いた。
「本当に楽しみにしているからね」
※※※
約束した日曜日を迎える。
私は黒がメインの花柄ワンピースに着替えると、優介から貰ったヘアピンを身に付けた。
ちょっと早めに外に出て、いつも待ち合わせにしている思い出の公園へと向かう――。
公園に到着すると、ジーンズに黒いジャケットとカジュアルの服装をした優介が、すでに待っていた。
「お待たせ」
「大丈夫、いま来た所だよ。何を食べたい?」
「そうね……パスタ!」
「じゃあ、駅前の喫茶店に行くか?」
「うん」
肩を並べて歩き出し、私が手を繋ごうと手を伸ばした時、優介は急に手を上げ、自分の髪の毛を触りだす。
痒かったのか? それとも、考え事かな?
――まぁ、いいわ。
私は手を繋ぐのを諦め、そのまま歩き続けた。
※※※
目的地の喫茶店に到着すると、私達は向き合うようにソファーの席に座る。
メニューを開いて「何にする?」
「そうだな……カルボナーラ。いやナポリタンも良いな」
「ゆっくり決めて」
「美穂は決まったのか?」
「うん、キノコとホウレン草の和風パスタにする」
「和風か……」
と、優介は言ってメニューをペラペラめくっていく。
――数分して優介はカルボナーラに決めると店員を呼んで注文した。
「そのヘアピン、まだ使ってくれているんだね」
「うん、大切なものだから」
あの頃の気持ちに戻りたくて、付けてきたとは恥ずかしくて言えないけどね。
優介は微笑むと「ありがとう」
「うん。そういえば、貰った時に聞かなかったけど、どうしてヘアピンにしたの?」
「――もう分かっているんじゃない?」
優介の言う通り本当はもう予想はついている。
だけど、本人の口から聞いてみたい。
「さぁ、どうかな?」
「まったく……初めてのデートの時に似合っていたのと、転校するかもって思ったら、身に付けてくれるものが良いかなって思ったからだよ」
予想通りの回答に久しぶりに胸がキュンッと、ときめく。
私は平静を装うため、水を一口コクっと飲んでから「なるほどね」
――ここで会話が途切れてしまう。
優介はいったい、何のためにデートに誘ってきたのだろ?
結婚の話ではないの?
もしそれが切り出し難いなら、話をしやすいように私から話題を提供してみるか。
「そういえば、奈緒。もうすぐ子供が産まれるって」
「おー、それは嬉しいな。御祝い考えないとだね」
「あ、うん。そうだね」
またここで会話が途切れる。
これじゃダメ?
それとも、今日は結婚の話題に触れるつもりはない訳?
あー……もう! じれったい!
「ねぇ、優介」
「なに?」
「私達が付き合って、もう10年経つんだよ。そろそろ私たちも将来の事を考えない?」
優介は意味が分かったようで、眉を顰めて困ったような表情をする。
え……まだ待たせるの?
「ごめん。もうちょっとだけ待ってくれ」
「もうちょっとって、どれくらい?」
「――ごめん。もうちょっとしか言えない」
勝手に期待した私がバカだった……。
「お待たせ致しました」
と、女性の店員さんが料理を運んできて並べてくれる。
――すべて並び終えると「ごゆっくり、どうぞ」
と、厨房の方へと戻っていった。
私達は無言でフォークを持ち、食べ始める――。
せっかくの美味しい料理なのに……せっかくのデートなのに……悲しい気持ちが胸に広がり、ほとんど何も感じない。
私達はこのままで良いのだろうか。
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