第13話

 映画が終わり私達は映画館を出る。


「いやー……展開が分かっていても泣けるな」

「そうね」

 

 優介が私の前にポケットティッシュを差し出し「ありがとう、助かった」


「いいよ、あげる」

「そう? じゃあ貰っておく。飯に行くだろ?」

 と、優介はポケットティッシュをズボンにしまいながら言った。

 

「うん」

「近くのファミレスで良いかな?」

「うん、大丈夫だよ」

「それじゃ行こうか」


 ※※※


 近くのファミレスに入ると店員に窓際へ案内される。

 私と優介はハンバーグのランチセットを頼んだ。

 待っている間、優介は色々と話しかけてくる。

 だけど私はさっきの事が気になって、返事を返すのが精いっぱいだった。


「美穂? もしかして具合でも悪い?」

 と、優介が心配そうに眉をひそめ言った。

 不安が顔に出てしまったのか。

 優介に余計な心配をかけてしまった。


「うぅん、そんな事無いよ」

 

 私は平静を装いコップを手に取りると、水を一口飲む。


「そう? それなら良いけど。もしかして映画、つまらなかった? 俺、こういうの詳しくなくて、ごめんな」

「うぅん、そんなんじゃないよ。私、この映画観たいと思っていたから、優介と観られて嬉しかったよ」


 優介は照れ臭そうに私から目を逸らし、視線を外に向け「それなら良かった」

 私に好意があるからこそ出る仕草。

 いまこの状況でそんな仕草をみると、胸がキュッと苦しくなる。


 ――優介を心配させてしまうぐらいなら、いっそ転校するの? って、今ここで聞いてみたい。

 だけど私は、優介の親の離婚話ですら、知らないことになっている。

 ここでそれを聞くには私の能力を話すしかない。

 でもそれは――。


「ハンバーグランチセット。お待たせ致しました」

 と、女性の店員が笑顔で持ってきてくれる。


 優介はフォークとナイフを手に取り、「うぉ、上手そうだな」

「本当だね」


 優介が私に差し出してくれたナイフとフォークを受け取る。


「ありがとう」

「うん、食べようぜ」

「うん」


 フォークでハンバーグを突き刺し、ナイフで切りながら、タイミングよく持ってきてくれて、助かったと思う。

 やっぱり、怖い……今の関係を壊したくないよ。


 ※※※


 私達は食べ終わるとお金を払って店を出る。



「これからどうする?」

 と、優介が歩きながら話しかけてきた。


 今日は初めてのデート……本当はもっと優介と居たい。

 でもこれ以上、一緒に居ると迷惑を掛けてしまう。

 そんな気がする。

 

「――ごめん。用事を思い出しちゃったから帰るわ」

「そう……用事じゃ仕方ないね」

 と、優介は残念そうに低い声で言って、歩みを止めた。

 私も立ち止まり「ごめんね」


「気にしなくて良いよ。家まで送っていく?」

「うぅん、大丈夫。それじゃ、また明日ね」

「おぅ、また明日!」


 私は優介に手を振るとその場を去った――。

 しばらくして立ち止まるとバッグからスマホを取り出す。


『今日は楽しかったよ、また誘ってね』

 と、さっきは恥ずかしくて面と向かって言えなかったことをメールで打つと送信する。

 またバックにスマホを入れ、歩き出す。

 

 ――少しして、スマホの着信音が鳴る。

 返事かな?

 私は立ち止まると、バッグからスマホを取り出した。

 

『メールを打っている所で届いたから、ビックリした。今日は付き合ってくれて、ありがとう。俺も楽しかった。また誘うわ』

 

 優介からの嬉しい返事を読み上げると、何とも言えない複雑な気持ちになる。

 スマホを胸元に押し当てると、いまの気持ちを込めるかのようにキュッと握り締めた。

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