第14話
デートから数日が経ち、放課後を迎える。
私はまだ優介から転校の事を聞きだすどころか、触れることさえ出来ていなかった。
刻一刻と時は過ぎ、早く確認しないと後悔する事は分かっている。
だけど――。
「優介、またね」
と、一歩が踏み出せず、優介に触れる事無く、手を振る。
「おぅ、またな」
優介の返事を聞くと、教室を出る。
すると廊下を歩く奈緒を見つけた。
私は近づきながら「奈緒、帰るの?」
奈緒が足を止め、後ろを振り向く。
「うん」
「そう、じゃあ一緒に帰ろ」
奈緒は手を合わせ「ごめん、今日も駄目なんだ」
「そう、分かった。それじゃまたね」
「うん、またね」
と、奈緒は返事をして、そそくさと私に背を向け行ってしまった。
奈緒は最近、こんな様子。
優介はバイト、ミナミは部活。
なんだか私一人だけが取り残された気分だ。
「ねぇ、聞いた? 3年生の
同級生の二人組の女の子が、私の正面から歩いてくる。
私は邪魔にならない様、端に避けた。
「聞いた、聞いた。また違う女の子に手を出したって話でしょ?」
「そうそう、ヤバくない?」
「ねぇ……背が高くてカッコ良いから、引っ掛かっちゃうのかな?」
「かもね」
背が高くてカッコイイね……。
ふと窓ガラスの外に視線を向けると、玄関を出て校門に向かう奈緒を見かける。
その隣にはゴミ捨て場で奈緒と話していた男の人の姿があった。
――まさかね。
※※※
次の日の昼休み。
私は人気の少ない階段の踊り場へミナミを呼び出す。
「話って何?」
「奈緒の事なんだけど最近、彼氏が出来たって聞いてないよね?」
「彼氏? 聞いてないけど、彼氏が出来たの?」
「分からない。男の人と一緒に歩いていたから気になって。ねぇ、ミナミ。3年の竜司って先輩を知ってる?」
ミナミが明らかに嫌そうな顔を浮かべ「竜司って女たらしと噂されている人?」
ミナミが知っているという事は結構、有名なのね。
「そう、その人」
「知ってるよ。まさか奈緒と歩いていた人って、その人なの?」
「分からない。私は竜司って人を知らないから。ちょっと確かめたいから、今から教えてくれない?」
「いいよ、行こ」
私達はそのまま階段を上り、三年の教室へと向かう――。
一組の教室に着くと、ミナミは立ち止まった。
ミナミは教室の外から中を見つめる。
「居そう?」
「うぅん、居ないみたい」
「そう」
ふと廊下の方に視線を向けると、奥の方から奈緒と一緒にいた男の人と、友達らしき人が歩いてくる。
ミナミも廊下の方に視線を向けると、ハッと驚いたような表情をみせた。
え?
「美穂、行こ」
「あ、うん」
ミナミが歩き出したので付いていく。
私達は踊り場まで戻った――。
「さっき歩いてきた男子二人組がいたでしょ?」
「うん」
「背の高い方が竜司っていう先輩よ」
「え……」
「ねぇ、奈緒と歩いていた人は違う人だよね?」
私は首を横に振り「うぅん、あの人だった」
「え……じゃあ、どうしよう」
「どうしようって……」
どうにかしたいけど、まだ付き合っているかも分からない。
「ただの友達かもしれないし、わたし聞いてみる」
「分かった」
そうだ。念のため釘をさしておかないと……。
「ミナミ、この事は内緒ね」
「うん」
ミナミと奈緒の間で話が拗れてしまうのは避けておきたい。
さて……どうやって切り出そうか。
※※※
その日の放課後。
「奈緒、ちょっと良い?」
帰ろうと廊下に出る奈緒を呼び止める。
「なに?」
「最近、一緒に帰ってくれないけど――もしかして彼氏でも出来た?」
奈緒は私から視線を逸らし、俯く。
「――うん。ごめん、照れ臭くてなかなか言えなくて」
「うぅん、大丈夫だよ。相手って、3年の竜司先輩?」
奈緒が顔を上げ、驚いた表情で「え、何で知っているの?」
「昨日、一緒に帰るところを見かけたから」
「あぁ……そういうこと。実はね、この後も一緒に帰る約束をしているの。だからそろそろ行きたいんだけど」
「ごめん、もう少しだけ待って。あのさ――奈緒は竜司先輩の噂、聞いたことある?」
奈緒は眉をひそめ、一気に表情を曇らせる。
「――あるよ、でもそんなの噂じゃん。それじゃ、行くね」
と、奈緒はそれ以上触れて欲しくないようで、私に背中を向けて歩き出した。
どんなマジックを使ったのか知らないけど、奈緒は噂を知っていても先輩を信頼しているようね。
今日はもうこれ以上、話は出来ないな……続けたらきっと、喧嘩になってしまう。
私はその場で立ち尽くし、奈緒の背中を見送るしか出来なかった。
※※※
数日が過ぎ、週末を迎える。
昼休みに入り、私達は弁当を食べ終わると、世間話をしていた。
なんだか奈緒の様子がおかしい。
ミナミが話しかけているのに、生返事で心ここにあらずという感じだ。
もしかして竜司先輩と何かあったのかもしれない。
奈緒、ごめんね。
ちょっとだけ過去を見させて。
私は心配になり、奈緒の手の甲に手を乗せる。
「奈緒、どうしたの?」
「え、どうしたのって?」
「ボォーッとしているから」
「え? ボォーッとしてた?」
ミナミが黙って頷き「していたよ」
奈緒は両手を合わせ「ごめん」
奈緒の様子がおかしい訳が分かった。
私はスッと手を離す。
「夜更かしでもしていたの?」
「うん、そんな感じ」
奈緒……デートに誘われて、夜遅くまで先輩と話していたんだね。
大丈夫かな……。
私は同級生が先輩の噂をしていたあの日から、『手を出した』って言葉が、ずっと気になっていた。
本当かどうかは定かではないが、あれから嫌な噂も耳にした。
もしそれが浮気以上を含んでいるなら――。
キーン……コーン……と、教室内に予鈴が響き渡る。
「あ、もうこんな時間か」
と、ミナミは行って立ち上がる。
奈緒も立ち上がり「じゃあ、戻るね」
「うん」
二人は椅子と机を戻し、自分の席へと戻っていく。
――デートの日と待ち合わせ場所、そして時刻は分かった。
奈緒には申し訳ないけど、様子だけでも見に行ってみようかしら。
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