第6話

 高校一年の時の私は目が隠れるぐらいの長い茶髪に、シルバーのボディピアスを耳に付け、誰にも話しかけられない様に、ひっそりと過ごしていた。


 私が能力に目覚めたのが中3の後半。

 能力については誰にも言わずに隠していたのだけど、それを匂わす発言が気持ち悪いと遠ざけられたのをキッカケに、少しでも人を遠ざけようと、考えた結果だった。


 本当は小心者だから凄く怖くて、怖い生徒に話しかけられるんじゃないか。

 生意気だって苛められるんじゃないか。

 そう思いながら、なるべく人とは目を合わせず、ビクビクと過ごしていた。

 

 そんな日々を過ごしてきた時に、濃い目のメイクに金色の長いウェーブの髪を揺らしながら、ズカズカと奈緒が近づいて来るもんだから、あぁ、ついに来たか……なんて思ったのを今でも覚えている。


 その時の奈緒は「その髪の色、良いね」

 と、ニカッと太陽に明るい笑顔で話しかけてくれただけだった。


 あの時は「どうも……」

 と、一言だけしか返せなかったけど、少しずつ会話を交わすようになっていって、一緒に居るのが当たり前の存在になっていた。


 出来るだけ友達の過去に触れないようにと避けてはいたのだけど、一緒に過ごす時間が長くなれば触れる機会も増えてしまう。


 ある日、私は彼女の肩にぶつかってしまい、過去を見てしまう事になった。

 その時にみたのは、奈緒が男子生徒に身長の事をからかわれているシーンだった。


 あぁ……彼女が今の姿に至ったのも自分と同じだったんだ。

 その時、奈緒の心の痛みを感じて、親近感を抱くようになって、更に心を寄せるようになっていた。


 

 そんなある日の休み時間のことだ。

 奈緒が頬杖をついて、黒板の方をボゥー……っと見ているミナミを見ながらこう言った。


「あの子、クラスに馴染めてないね」

「そうね。話しかけるのが苦手みたいよ」

「そう……じゃあ、話しかけてあげようか?」

「え? 私達が話しかけても大丈夫かな?」


 奈緒はミナミの方へ向って歩き出し「大丈夫、大丈夫。きっとあの子も私達と同じよ」


 深く付き合い始めたからこそ、派手な恰好とは裏腹に奈緒も人付き合いが苦手であることを私は知っている。


 だけどあの子は、あの子なりに似たような境遇の子を救いたいと思っているのかもしれない。


 私はそう感じたと同時に、自分の時もそうだったかもしれないと気付く。

 あぁ……奈緒!


 私は直ぐに奈緒を追いかけ、愛おしい気持ちと抱きしめたい気持ちを必死で抑えながら横に並んだ。


 そして、こう思う。

 こんなにも優しい奈緒のようになりたい……。


 それからだ。

 私がその子に触れることで力になれるなら、ソッと背中を押してあげたいと思い始めたのは。


「ちょっと美穂。聞いてよ~」

「どうしたの?」

「ミナミちゃん。私に話しかけられて、悪い道に勧誘されるかと思った~なんて言うんだよ。酷くない?」

「ぷッ――はははは」


 私はそれを聞いて自分のことを思い出して、腹を抱えて笑いだした。


 ミナミはこの頃、思ったことをポロッと口に出してしまうのを気にして、なるべく人と話さないようにしていたらしい。


 奈緒は不思議そうに私を見ながら首を傾げる。


「ん? 何でそんなに笑ってんの?」

「だって……私が奈緒に話しかけられた時と、同じ事を思っているんだもん」

「え~、何よそれ……」


 奈緒は不満そうにそう言って、腰に両手を当てると「人を見かけで判断しちゃ駄目だぞ」

 その後に脹れっ面を見せる奈緒は、なんとも可愛らしく思えた。


「ごめん、ごめん。本当にそうよね! じゃあさ、二人でイメチェンしようか?」

「は? イメチェン?」

「うん! もう自分を偽る必要も無さそうだし――」

 私はミナミの方へ視線を向け「新しい友達も出来そうだしね」


 奈緒はポリポリと、頭のてっぺんを掻くと「まぁ、いいけど」

「じゃあ、決まりね」


 それから私は黒髪のボブヘアにして、ピアスを外し、奈緒は光が当たると分かる位の薄茶色の髪の毛にして、化粧を薄くした。

 すると徐々に友達も増えていき、今に至ることになる。


 何を考えていたんだろう私。

 全てを振り返り、冷静になった私はまずそう思った。

 奈緒の過去に触れたからこそ、今の私が居るのに……。

 

 奈緒が優介に告白したのはショックだけど、それで奈緒が一歩進めるなら、それはそれで良いじゃないか。


 譲れない気持ちがあって結果が気になって仕方ないけど、このまま知らないふりして見守るとしよう。

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