第5話

 それから数日が経つ。

 良太君のカードは無事に返ってきて、お互いの親、本人同士の話し合いだけで解決した。

 だけど学はクラスの中で浮いた存在となっていた。

 

 ちょっぴり可哀想だけど、自業自得なのだから仕方ない。

 それより私は、優介と奈緒の事が気になっていた。


 次の授業は移動授業。

 奈緒を誘って一緒に行こうかな。

 私はスッと立ち上がると、教室を出ようとしている奈緒を追いかける。


「奈緒、化学実験室まで一緒に行こう」


 私が後ろから声をかけると、奈緒は足を止め振り返った。


「え?」

 と、言った奈緒の表情はどことなく嫌そうに感じる。


「ごめん。用事があるから一人で行くわ」

「用事って何? 付き合うよ」


「大丈夫」

 と、奈緒は返事をして、そそくさと私に背を向け歩きだす。

 

 ここ最近、こんな調子だ。

 私が何かをした覚えは何もない。

 なのに何で? 納得いかない!


 私は早足で奈緒に追いつき、左手首を握ると「奈緒、待って」


「何!?」

 と、奈緒は急に掴まれた事に腹を立てたのか、睨むような表情でこちらに顔を向けた。


 掴んだ手から、奈緒の過去が脳裏に流れ込んでくる。

 ――その瞬間、何で奈緒が私を避けるのか、分かってしまった。


「ごめん。何でもない……」


 私はスッと奈緒から手を離す。

 奈緒は黙って、歩いて行ってしまった。


 奈緒……優介に告白したんだね。

 

 ※※※


 その日の授業は奈緒の事で頭がいっぱいで、何も入って来なかった。

 早く家に帰りたい……。

 そう思いながらトボトボと、帰り道を歩く――。


 家に帰り、玄関で靴を脱ぐと「ただいまー」

 と、声だけ掛けて、直ぐに自分の部屋へと繋がる階段を上り始めた。


「美穂? お帰りー」

「ただいま」


 早く部屋に行きたいんだから、声掛けないでよ!

 ちょっとイラッとする。


「ちゃんと制服を脱いでから、遊びなさいよ」

「分かってる!」


 イライラをぶつけるかのように怒鳴り散らし、ドンドンと音を立てながら勢いよく階段を上る。


 何も悪くないお母さんに当たり散らした事に罪悪感じ、更にイライラが積もる。

 自分の部屋のドアを開けると、抑えきらない感情を込め、ドンッと響くぐらいに勢いよく閉めた。


 もう……嫌ッ!!

 

 私は着替えもせずに、すぐさまベッドに向かい、クシャクシャになった掛け布団を勢いよく端に寄せると、倒れこむかのように横になる。


 大の字になりながら、白い天井を見据え「はぁ……」

 と、溜め息をつく。


 私の能力は触れている時間に左右され、確実ではなく断片的だから、自転車置き場で奈緒が優介に向かって『好きなの』と言った所しか視えなかった。


 その後はどうなったかは分からない。

 どうして? 確かに忠告はしてくれたけど、あなた『私より背が高い人しか』って言ってたじゃない!


「――もしかして私がアドバイスしたから?」


 私は頭の上にあった枕を手に取り、ギュゥゥゥっ……と、両手で抱きしめる。

 親友と気になる人を両方とも失ったようで悲しくて、涙が溢れてきた。


「こんな事なら、奈緒の過去なんて見るんじゃなかった!」

 

 そう思いながら、ギュッと目を瞑る。

 溢れ出た涙が、顔を伝って布団へと落ちていく。


 ――涙を拭きもせず、しばらくそのまま何も考えずにいると、心に余裕が出来たのか、奈緒との思い出が蘇ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る