第10話 勧誘と実践
◆
かくして、バイスと漫画共同制作パートナーシップ契約を結んだ僕は、最初から遊びか思い出作りと決めつけて彼の計画に耳を傾けていた。
しかし、バイスは非常に本格的に職業的漫画描きへの道を模索しており、合作第1作目を秋口締め切りの某有名週刊少年漫画誌の新人賞に投稿すると宣言した。
それに対して僕は、半年ほどの時間しかないしそれだけの期間にどれだけの作業ができるのか見当もつかずどうにも無謀だという気がしたので反対意見を表明したのだが却下された。
まあ、僕は完全に素人なわけで、バイスなりに経験に基づく計算というものがあるのだろうと思った。
と言うのも、この男は見た目によらず現実的でかつ徹底的な計算ができることがすぐにわかったのだ。
彼のまずしたことは作画するためのスペースの確保である。
『百人一首同好会』なる実体のない組織を立ち上げると、正規のルートを通じて学校当局にその存在を認めさせてしまった。
僕含めた数名の人間がその組織の立ち上げに関与したとされたが、実際は名義を貸しただけでそのうえ関与させられたことに気付けないほどの手際のよさであった。
高校入学から半月ほどでそれを成した行動力に舌を巻いた。
ともあれ、僕らは地学準備室という地味ながらも作画に集中するに十分な環境を得ることにあっさりと成功したのだ。
「まあまあだな。悪くない」
と言いつつ得意げなバイスに、僕は、
「十二分じゃないかな?」
と実際二分ほどはやりすぎじゃないかという警告も込めて言ったが、
「誰も使用していないならもったいないじゃないか。遠慮するだけムダさ」
などといけしゃあしゃあと言ってのけ、ふふっとかわいい笑顔を見せた。
わがままになる、と宣言した彼は実にわがままであった。
そんな問答のそばから今度は漫画を描くための道具が各種取り揃えられていった。
そのほとんどはバイスが自宅から持ち込んだ道具であったが、本格的な道具の買い出しに付き合わされもした。
電車で数駅ほど行った街の片隅にある画材屋に僕らは足しげく通っては、活動に必要な物品を購入するために学校側から渡された同好会活動費――学校からせしめた、と言うのが正確かと思われたがそれではお互い決まりも悪かろうと言うことで目をつむり――でバイスは的確に作画用品を購入していった。
この辺まで来ると、僕も作画経験もないくせにテンションが上がってしまい、店員さんにペン軸に使用する木材の種類についてとかどうでもいい質問を投げかけたりしてバイスに叱られた。
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