第27話
「――と、これが私と少年との出会いになります」
そう私と助けた少年――中学1年生であった
あ、心のお嬢様は途中帰宅しました。
「そうか。色々と説きょ……言いたい事はあるがまぁ、身体を張って青少年の自殺を辞めさせたのは素晴らしい」
「でしょう? 素晴らしい善行を積んだでしょうっ? だからそのぉ……私を囲まないで下さいまし」
あ、お嬢様お帰り。
「「「梨」」」
「あ、はい。ごめんなさい」
あ、お嬢様さようなら……。
とまぁ、経緯を話しているうちにいくつか質問を頂いたので嘘偽り無くそれに答えていったら何故か淳兄さん達に包囲されております。
「少年よぉ助けてくれぇ。共に生き倒れる寸前になりながらの帰宅という名の……苦難? を乗り越えてきた私を助けてくれぇ」
「いやいやァ乗り越えてないねェ? 寧ろ梨がァ少年ちゃんの肩に一方的に乗っかってるねェ」
「んはー」
可愛らしくオロオロしている久遠尾々に助けを求めたが、応えてもらう前に麻紗姉さんに痛い所を突かれて鳴いてしまった私。
もうね! 私が小動物みたいに鳴く事しか出来ないよこの空気……。
ちなみに私が言った”共に生き倒れる寸前になりながらの帰宅という名の苦難”とは、私が久遠尾々を抱きかかえて倒れた際に思った以上に心臓と肺へのダメージがあったらしく、学校の校門を出る時には私の状態は虫の息。倒れてもおかしくないレベルに虫の息だったので、そこから少年におんぶして貰ったり肩を貸して貰いながらの帰宅を指します。
私が久遠尾々の肩を借りて帰宅したのはそれが理由となります。
「まぁうん。とりあえず梨への説教云々はお師匠が来てからだな」
「あら呼んだので?」
「あぁ。どこかの誰かさんが死にかけで帰ってきたからな。驚くほど低めなトーンで『一時間後にそっちに行く』ってさ」
「あらあらまあまぁ」
これは四季先生からも小言を貰いそうだな。――フッ、なんてね? 最近分かった事なのだが、四季先生は酒に合うツマミである程度は懐柔できる事を知った。特に四季先生は私のお手製のコンニャク一つで作る甘辛コンニャクが好きなようで、以前その一品だけで500ml缶ビールが4缶飲んでいた。しかも食べ終わったらそのままコンビニに走って追加のコンニャクとお酒を買ってくる始末。
無論、ご要望の品は作りました。なんせ私は我が家の台所を預かる身。大切な人達の胃袋の叫びは見過ごさねぇのです!
まぁ淳兄さんによってドクターストップが掛けられてお酒のみ没収されてましたがね。
そんな訳でツマミを作って懐柔しようそうしよう。買い物は明日の予定だったけど幸いな事にコンニャクやその他のツマミになる食材はまだ冷蔵庫の中にあったはず! そして淳兄さん達に頼んで買い置きしているビールがキンキンで冷えている。勝ちもうしたな――。
「あァ、ちなみにツマミになりそうな食材は全てェこの麻紗姉さんが美味しく頂いといたからァ。勿論、キンキンに冷えているであろうビールもねェ?」
「えっ、ビールさんも? 全部? 6本とも全部さん??」
「Mais oui」
と、衝撃発言にバグる私と、その原因である麻紗姉さんによる力強い『はい』という返事。
辛いわー。道徳? を淳兄さん達に叱られ、死に掛けた事を四季先生に叱られる。辛いわー。
「さてと。――えーと尾々君? どうして自殺なんてしようとしたのかな? お兄さん達に聞かせてみな」
「ッ――!?」
と、私が途方に暮れている中、いつの間にか食卓用の定位置の席に着く淳兄さん達。席に付くなり淳兄さんは久遠尾々に『やれやれこの子ったら』といった風の優しい物腰柔らかな視線を送りながら本題に入り、久遠尾々はその小さな身体をほんの一瞬跳ねらせる。
「……」
「「「「……」」」」
「……」
「「「「……」」」」
「……」
「「「「……?」」」」
口を開けど言葉が出ない。しかしそれを数回繰り返しているうちに久遠尾々の表情が曇っていく――。その姿に二宮棗、淳兄さん、麻紗姉さんの順で曇っていった。
そして数秒後、
「――……生きてちゃ……いけないと、思いまして……」
と、これがおおよそ12年間という歳月を生きた少年が辿り着いてしまった自殺の理由であった。
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