第26話
「ではでは」
「おう。気を付けて帰れよ」
「oui」
そう了解の一言添えて
あの後、私一押しのV〇uberの話で盛り上がったり、四季先生からいつもの肺と心臓の機能維持の為の薬を飲んだり打たれたりして時刻は19時頃。最終下校一時間前とあって校舎から人の気配が全くしない。そして節電なのか廊下の蛍光灯が半分消えているため太陽が完全に落ちた今の時刻はちょっとしたホラーゲーム仕様になっていた。
そんな状況下の中で私は――、
「はぁっ……ん、寝む」
と、酷く退屈しておりました。
オバケがいない事なんて深夜の病院を飽きるまで徘徊してたんで知ってます。なんだったらお叱りを受けるまで直近で死んだ患者が居た病室やら手術室、霊安室に安置室にも何十回と足を運んでます。
「恐怖かぁ……恐怖ねぇ……」
あぁそう言えば、最後に怖がったのは何時だろう? 心臓が跳ね上がったり、声を出すレベルの驚きを体験したのは何年前だったかな?
まぁ心臓が跳ね上がったら私、そのまま逝ってしまうかもしれませんが。
「! ん?」
廊下のT字路に突き当たる直前、ポケットに入れていたスマホが振動して立ち止まる。
心配性の淳兄さん達からの『迎えに行く』のメッセージかな? 四季先生の事だから私が出てった後に連絡してるはずだから――と、予想。申し訳ないと思いながらスマホを取り出して電源ボタンに親指を添える。
まさにその瞬間だった。
「ん?」
あらあらまあまぁ、遺体有り霊安室? と、霊安室やら安置室――特に遺体が有る時と遜色がない死臭を鼻腔が感じ取り顔を上げる。
「……」
はいはーい。以前、心療内科に訪れたブラック企業&ブラック家庭のせいで生きる事に頑張れなくなったサラリーマンよりも生気が無い。そんな必要最低限の生気すら持ち合わせてなかったナニカは私に気づく事なく目の前を横切って行かれました。
「んふー」
横切ったナニカとは対照的に心奪われて目で追ってしまった私は眠気が消え去り忘れていたワクワクとドキドキが蘇る。
気が付けば横切った例のナニカを尾行していた。
「……」
二階、三階と例のナニカは階段をのらりくらりと登っていき、本来学生なら行き止まりになるはずの屋上のドアまで到達する。
「!」
カチャリ、という音の後にドアが開かれる。どうやらポルタ―ガイスト的な超能力でドアをこじ開けたらしい。
やはり生者ではないナニカか! 未知との遭遇とはなんて素晴らしいッ――と、この胸のワクワクとドキドキがトキメキへと融合進化した。
「んっ」
バレないように5歩以上距離が空いた事を確認してから静かにドアを開けて私も屋上へ出る。
異常気象の昨今、11月という季節は最早真冬。そんな季節と夜が相まって夜風が冷たく、風が吹く度に私の足が勝手に止まってしまうのに対し、ナニカは夜空を見上げながら階段を登っていた時とはうって変わって足取り軽やかに歩みを進んでいく。
「!」
そして遂に最後のドアであるフェンスの向こう側に出る為のドアのカギを開け、ナニカはフェンスの外へと出る。
文字通りの崖っ縁である。
「! んふふ♪」
私は私でフェンスのその先へと進んだナニカの姿に胸のトキメキがついに寒さを上回り、遅かった足取りが軽くなってたった数秒で私もフェンスまでたどり着く。そして胸のトキメキは思考までもをバグらせたのか、触れようと思えば触れられる距離にまで近づいていた。
そのせいか――いや、そのおかげなのか、
「アハハ」
「! ぁ……」
ナニカが突如として発した笑みが私に過去の投身自殺をした時を思い出させた。
「あっ! もしかして投身自殺をしようとしてます?」
「!? ――え」
気が付けば私――六出梨は無意識に今の言葉をポロっと口から零してしまい、それに驚いたナニカは身体を180度反転させようとした。
が、崖っぷちだった足場の関係と咄嗟の行動であった為に背中から落ちていくナニカ。
「ぁ――……あ……は、ぁっ――……」
「!? よっと――」
小さい悲鳴のような嗚咽と、嗚咽と共に見せた死への恐怖に歪んだ顔。気づけば私は咄嗟に地面から離れかけていたナニカの片足を踏みつけ、持っていた杖を回転させてはU字の持ち手の部分を何かの首に引っ掛ける。そして私まで落ちない様に空いた手でフェンスを掴んだ。
「――」
「あらあらまあまぁ……ただの少年でしたか」
ナニカの両目から涙が流れる。
涙――涙は生きとし生きる者しか流さない。だから、未知のナニカではなくただの少年だと言う事に気づかされた。
「ほれ引っ張るぞい? ――よっ……とっ! ととっ――ゔェッ!?」
少年を
――あ、ほんのりと血の味がします。呼吸、してますか麻紗姉さんの肺? 心拍数、正常ですか淳兄さんの心臓?
「っんく……んっ……」
「?」
胸元から噛みしめる様な声が聞こえる。視線を向けてみると助けた少年が私に縋りついて泣いていた。
「ん」
私は杖から手を離し、意地と根性で咽るのを我慢しながら泣きじゃくる少年の頭にそっとその手を添えて夜空を見上げるのだった――。
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