第28話

 僕――久遠尾々の人生が大きく狂い始めたのは今から約7か月前。本来であればおめでたい日になる筈の中学校入学式の日でした。


 何があったかを簡単に、結果のみでまとめてしまうとこうなります。

 中学校の入学式の日に、僕の為に仕事を休んでくれたお父さんが交通事故で亡くなります。そしてお母さんがショックからなのか、僕の幼馴染だった女の子のお父さんと不倫。心の傷が癒え過ぎたのか、それとも傷から発火してしまったのかGW最終日に僕とお姉ちゃん、そして幼馴染の家族を残して2人は蒸発。


 僕はお父さんの遺影の前で呼吸をたまに忘れてしまうほど途方に暮れてました。姉さんは吐くもの吐いて流すもの流した末に壊れ、幼馴染という関係も向こうのご家庭が家庭崩壊したと同時に壊れてなくなっちゃいました。


 そして僕は、壊れてしまった姉さんから――いつか、いつか立ち直ってくれると信じていた姉さんから死んだ方が良いと思えるお願いをされましたとさ。



「――……生きてちゃ……いけないと、思いまして……」


 と、これがおおよそ12年間という歳月を生きた少年が辿り着いてしまった自殺の理由であった。


「「「――ん?」」」


「あらあらまあまぁ」


 時が数秒停止した後、息ピッタリで淳兄さん達は首を傾げる。私は私で不謹慎ながら余りに息ピッタリで首を傾げられたので感心してしまいました。


「す、すみません! き、気色悪いですよねっ? あ、あはは……本当にすみません……」


「あァ別に気色悪くはないよ。普通にビックリしただけェ」


「そうだな。普通に驚いた。まさか12歳の少年の口からそんな言葉が出るとは思わなかった」


「ですね」


「あらあらまあまぁ、凄いねぇ~」


 私、素晴らしい爆弾を拾ってきちゃったのかな? 核弾頭並みの素晴らしい代物を! ――と、三人の困惑した様子に思わず今の感想が出る。

 そしたら、


「「「梨」」」


「ぁあっ……失言でした」


 背筋が凍り、鳥肌が立ってしまうレベルの笑みを向けられながら名前を呼ばれてしまった。

 まぁ淳兄さん達からしてみれば、爆弾を拾ってきた本人が何を能天気で無神経な事を言ってんだ? ってな感じなのだろう。――はい、仰る通りです。


「久遠少年っ! 私にしてくれた説明を皆様方にもしてくれたまえ」


「あ、はい――」


 と、私は逃げるように話を戻す。――が、


「あの、六出先輩にも話した事な……んです、が……ぁ、あっ!?」


 と、また言葉に詰り吃り始める。ただ今度のは先の「生きてちゃ――」の言葉を捻り出すまでとは違っていて、普通に説明し辛そうな様子だった。

 

 なのでこの爆弾を拾ってきた私が責任をもって、聞いた範囲の話を簡単にまとめてみました!


「あらあらまあまぁ、どうしたんだい少年? 私にしてくれた話――を皆様方にもしてくれたまえよ」


「「「What?」」」


「っ!? 全部言っちゃった……」


「? あらあらまあまぁ」


 今の説明に淳兄さん達は疑問の表情を浮かべ、少年に至っては気まずさに耐えかねて――って表情を浮かべながら軽く俯いている。


「――ふむ。これは知っている範囲で私が説明した方が良さそう? ねぇ淳兄さん」


「そうみたいだな。頼む」


「ouioui。――事の始めは入学式の日に少年のお父様が交通事故で亡くなったところから」


 私は帰宅道中に聞いた話を伝える。


「何でも仕事第一だった少年のお父様が初めて……息子? あれ家族だっけ? ……あ、両方か。まぁ息子の入学式の為に仕事をお休みになられたんだと」


「良いお父さんだ」


「ねェ」


「んっ――」


 と、淳兄さん達の発言に思わず『私達のお父さんも最高です!』と、言いかけたが断腸の思いで何とか堪える。


「続き。そんでもって事故のショックからなのか少年のお母様が、少年の幼馴染だった少女のお父様と不倫。約三週間程度の不倫をエンジョイし、白熱し過ぎた結果GW最終日に2人は蒸発。――! 二宮君二宮君、気持ちは察するけど静まりたまえ」


「なら言い方をさ? 少しは気にしてくれ。不倫エンジョイは結構な? 辛いんだ……」


「ごめんなさい」


 本気で辛そうに言われてしまったよ。いやはや言葉選びは難しい。これでも結構該当するお二人のメンタルに配所した言い回しにしたつもりだったんですがねぇ……。


「続きぃ……ですかねぇ? その後、当然幼馴染とは疎遠。更に追撃と言わんばかりにメンタルが粉砕骨折したお姉様による――」


「アァ待って待って下さいッ!!」


「? なんだね一体?」


 何か不味い事を言ってしまったのか、いきなり取り乱した久遠尾々に遮られてしまう。なんだなんだと内心凄く驚いていると久遠少年が顔を近づかせながら小声で必死に訴えてきた。


「あのっ! ね、姉さんの事は言わないで下さい。絶対に言わないで下さい! お願いしますッ!!」


「お、おう? わ、分かった」


 必死にお願いをする久遠少年の迫力に気圧されてしまい、つい承諾してしまう――。


 ――が、しかし私は四季先生と同様に正直者。それは久遠尾々を除いたこの場の全員が知っている。

 したがって、


「なんて」By過去体験有りの二宮君。


「DVをせがまれてたそうです」


「先輩!?!?」


「「「あらあらまあまぁ」」」


 必然的にこうなります。私――六出梨は正直者が生きやすい世界を夢見ております! ……ふっ。

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