第19話
「……」
「……」
互いに無言。しかし目で訴えあう――『気に入らねぇ』と。
「……」
「……」
変わっていく相手の表情が気に入らなっていく程に、互いが互いの負の感情を煽りそれが表情に反映されていく。
てか、なんでこいつ等がここにいるんだ? ○○の生徒はここに来ることなんて滅多にない。学校から徒歩数十分でいける距離にここと同じような施設があるから基本はそこに行く。少し遠征をしたとしてもここより数駅先の都市部を選ぶし実際にそうしてる。
「チッ」
と、俺を見下したまま露骨な舌打ちをし、鼻で嗤いながら視線は外してそのまま歩き去ろうとする奈々氏景隆と島之南帆とその他二人。
「――ッ待て」
ふと六出が流した涙が頭を過り、歩き去ろうとする奈々氏景隆達を呼び止めてしまう。俺は戸惑いながらもそれを悟らせない様にゆっくりと立ち上がって先の質問の返答をする事にした。
「買い物に来てただけだ」
「――誰かとか?」
「? あぁそうだが?」
一人でか? ではなく誰かとか? に多少の違和感を覚えたがそれを指摘する前に奈々氏景隆の口元が歪んだ。
「――ハッ! お前をあんな顔で笑わせたんだ。さぞ寛大な心と慈悲を持った人なんだな? 犯罪者の子供な上に犯罪者を庇う様な奴と一緒にいるんだからな!?」
「……」
耳を澄ませる代わりに少しばかり大きく開いてしまった口を閉ざした。話しを聞いた上で何も言わない為に。言いたくないから。心から感情を切り離した。心を揺さぶらな為に――無駄に感情を煽られない為に。
これが性根が腐った甘ったれ共に対する処世術。自分を守るというより疲れないためのもの。これのおかげで俺は四人からの身勝手極まる誹謗中傷をやり過ごし続けた。
――が、
「それか犯罪者顔負けのロクデナシなんじゃないの?」
「黙れ」
「ヒッ――!?」
その他の一人の言葉が突き刺さり俺は溜まらずドス黒い感情をぶつけてしまう。――と、悲鳴を上げたその他一人の前に奈々氏景隆が割り込んではしたたかな笑みを浮かべた。
「どうしようもなぇな! 俺じゃなくて女を威嚇するなんてな? ……ハハッ」
「……」
「どうした? 昔みたく殴れよ! 犯罪者の息子がッ……殺人犯の子供がよッ!!」
「――ぁ」
久しく突き付けられなかった現実に我を忘れる。――が、俺の名前を呼ぶ六出の声が何処からか聞こえて我に返る。気が付いた時には俺は奈々氏景隆の胸倉を掴んで拳を振りかざしている最中だった。
「すまない。悪かった」
「――……は?」
掴んでしまった胸倉から手を放して謝罪する。まさか俺から拳ではなく謝罪の言葉が飛んでくるとは思っていなかったのか奈々氏景隆は『ありえない! いったいどうして!?』と言った風の疑惑と絶望が入り混じった表情を浮かべていた。
そんな奈々氏景隆に俺は先ほど抱えてしまった疑惑をぶつける。今の奈々氏景隆には素面を装う余裕が無いと思ったから。
「……なぁなんでだ? なんで六出を殺そうとしたんだ?」
「っ――!?」
俺からの質問に息が詰まるのが1人、奈々氏景隆がいた。俺の疑惑は確信へ、楽観が憤慨に切り替わる。
「ち、違う!?」
「違う? ――あぁ前にポロっと言ってたな? 『話が違う』って」
「!?」
「お前わかってんのか? お前のせいであいつは死にかけたんだぞ」
「それはっ――南帆? 南帆!?」
急に歩み寄ってきた島之南帆を奈々氏景隆が疑惑と縋る様な声と表情を出し、それに答えるように――、
「あんな最低の糞ッたれなんて死ねば良かったのよっ」
と、俺の頬を殴っては、擦れてしまう程に声を震わせながら吐き捨てる。この時の島之南帆はヒステリックを起こした時の狂気染みた風貌でなく、覚悟して対峙したとしてもたじろいで然るべき”怨恨”にその身を静かに焦がしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます