第4話
「ふくっ……きっ」
どうやら私は自身の病弱さを利用して島之南帆、姫島瑞乃とついでに相上綾香の三名と性奴隷云々の関係を築いてたらしい。しかも私は彼女達に金銭も要求してそれに従わなかったら暴力も振るったり、自分達の卑猥な写真を自分達で売らされたり、更にはパパ活(食事のみ)もさせられていたとか。
――そして私が一番ツボったのはこれ、”妊娠させられてその中絶費用を彼女達自身に稼がせた”という話。
「ひっ……ンフっ」
もう笑みが零れて止まらない。授業中の嫌な静けさの廊下で一人笑みを零し続けほど四季先生が教えてくれた私が休んでいた期間の出来事が面白かった。
私凄いな! 殺されたって無罪放免にされて然るべきな極悪人じゃん!! 女性関係でイキッてる馬鹿どもにマウント取れんじゃん。
「! すぅ……はぁ」
私の教室である2年1組に到達し、ゆっくり深い深呼吸をして零れ続ける笑みを噛み殺す。
――ガラッ。
「おはようございます」
教卓側のドアを開け、普段通りの声量で挨拶をする。
『……』
目線がッ! 凄いッ!! 威圧感的なものが圧し掛かってくるーッ!?
「っ……ん。……はい先生」
にやけそうになるのをなんとか押し止め、先生に保健室登校の書類を一枚手渡す――、
「? ――!?」
が、先生は一向に差し出した書類を受け取ろうとはせず黒板に文字を書き続けており、後方から数名の笑い声でそれが意図的な無視だと気づく。
それに気づいてしまい私は吹き出しそうになりました。教師なのに、一人の大人なのになんと器が小さいことで。
とりあえず私は書類を教卓に置いて自分の席へ向かう。――が、
「? ――ッ!?」
検査入院前にはあったはずの私の机と椅子がなくなっていた。窓際の一番後ろの席だ。
席替えしたのか? と、前の列と隣のクラスメイトを確認したが同じ奴ら。不可思議な出来事に少し頭を悩ませていると、またもや後方の笑い声にこれも意図的な嫌がらせだと気づく。
勘弁してくれ。少し噴出してしまったじゃないか。クラスメイトが私への嫌がらせにわざわざせっせと机と椅子をどこかに隠している姿なんてのは堪らない。盛大に噴出して笑わなかった私を誰か褒めてくれ!
「――っ、と、とりあえず」
一旦教室を出て笑おう。ここで爆笑するのはヤバい。なんとなくヤバいと思えるし、人前で大爆笑するのはなんか嫌だ。
それから隣の空き教室から机を拝借しよう。運が良ければ新品の机があるかもしれない。
「? ……! あぁ……ヒキッ」
後ろのロッカー側から廊下へ出ようとした際、ドアに一番近い席の女子が私を睨みつけていた。それはもう熱烈に、マッチがあれば擦らずに火が点きそうなレベルで。
廊下に出て少し歩いた所で私を睨んでいたのが委員長であり、恋の辛さを知ったので一生恨みますとほざいた相上綾香だった事を思い出す。
もう本当に勘弁してほしい。自分でも驚くレベルに口角が引きあがって頬が痛いよ。こんなんじゃ下校まで持たない。爆笑してしまう。それはもう過呼吸になるレベルのものを。
「――お前、なに笑ってんだ?」
「ん? ――あぁおやおやまあまぁ、かつての……かつての? なんだい? 親友?? に、向ける顔じゃないねぇ奈々氏君」
振り返ってみるとそこには親の仇と言わんばかりに敵意やら憎悪やらを滲み出させている自称兄貴分の親友――
「――梨ッ」
「ぐッ!? ――ゴホッ」
空き教室入るなり奈々氏景隆に胸倉を掴まれ壁に叩き付けられた。
「ひ、酷いね。私が病弱だって知っているだろう?」
「あぁ……あぁッ! 知ってるさッ!! だからこの程度で済ませてんだろうがっ!?」
「あらあらまあまぁ……あぁ」
呼吸をする度に感じる鈍い痛みで命の危機を感じたのか、奈々氏景隆とのつまらない記憶が鮮明に甦る。
奈々氏景隆とは小学生からの付き合いで島之南帆と同様にいつの間にか私の周囲に居た人間だった。
性格は一言で言えば傲慢野郎で思い込みも激しい迷惑千万な性格であり、勝手に私を弟分と言い張って私の行動を制御してくる。真っ当な理由でなければ私の言い分を飲んだ事は一度だって無い。遊ぶ気分じゃないから遊ばないが一切通用しないのが奈々氏景隆だった。
「っ!」
「ングッ――!?」
私の表情が気に入らなかったのかもう一度壁に叩き付けられる。ほのかに血の味がした。
「そのっ、様子だと噂を信じていらっしゃる?」
と、質問すると私の制服を掴む手に更に力が入り上へ引きずられた。
「あんなもん信じるわけないだろうが! お前とは長い付き合いなんだからな。……でもなぁお前と同じくらい長い付き合いの南帆と瑞乃が泣いていやがった。お前にずっと裏切られてたってなッ! お前の本心を聞いてお前との思い出が辛くて悔しくて堪らないってなッ!? ――初めて見たよあの2人が泣いてる姿。初めてだったよ……あんなに胸が締め上げられて吐きそうになったのはッ! お前あの2人に何言いやがったんだっ?」
「なにを? ……なにもぉ」
何言った? と、言うのはおそらく転校生――八條朔八との電話での事だろう。特に何も言ってはいませんねぇはい。違かったとしてもこれ以外に思いつかない。
「嘘つくんじゃねぇよ! ……それともあれか? もう忘れましたってか?」
「あ、じゃあもうそれで」
この問答が面倒くさくなったのと、いい加減離してほしいのと、顔が近くて気持ち悪いの理由で嘘をつく。こうすればこいつは頭に血がのぼってまた私を壁に叩き付けるはずだから。
「っ――!? ふざけんなッ!」
「ゴブッ!? ゴホッ――」
「!? ぁ」
と、予想通りに怒り1度目よりも強く叩き付ける。と言うかもはや感情任せに叩き付けやがった。それにより私は咳き込み血が混じった唾が口元から垂れ、それにギョッと驚いた奈々氏景隆は私から手を離して飛び退く。
いきなり離された私はそのまま膝から崩れ落ちたが横たわる前に両手を床に付けてなんとか姿勢を保った。
「糞ッ」
奈々氏景隆は私のカバンを拾い上げてはその中から薬袋と水、酸素吸入器を見つけそれ等を私の前に落とし最後に私のポケットからスマホを取り出す。
「……ほらよ。四季先生を呼んどいた。すぐに来るってよ」
と、スマホを私の視線の先にそっと置かれる。スマホの画面には『隣の空き教室に居る。ちょっとヤバいからすぐに来て』と、即読付きのメッセージ送信されていた。
「話はまだ終わってないからな」
奈々氏景隆は去り際にそう言って空き教室から出ていき、その数十秒後に四季先生が血相を変えて現れる。
「あぁ」
同じ親友でも血よりも涙を取られてしまった。
全くもってなんて事だ。あらあらまあまぁ困った困った。――どうしてだろう? どうしてこんなに――、
「――んひっ」
面白いんだろうかッ!?
「んひひっ……ひひっ」
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