第3話
「あらあらまあまぁ」
検査入院明けの登校。しかし私の上履きがなくなっている。それどころか空の下駄箱には『人でなし・外道・etc』などといった罵詈雑言が書かれていた。
「どうもです」
「……チッ」
「?」
とりあえず来客用のスリッパを拝借しいつもお世話になっている購買で上履きを調達したのだが、数歩歩いた所で真後ろから舌打ちが聞こえた。
「まぁいいか」
購買の自称笑顔が素敵なおばちゃんから笑顔が無かった上に、いつもの釣銭の手渡しではなくトレーになっていた事に違和感を感じたが気にしない。最後の舌打ちも気にしない。
――まぁ、なるほどな展開ですな。大方あの女子3人が私の悪評的な何かを言いふらしたのだろう。
とりあえず私は正確な情報を手に入れようと保健室へ向かった。
「おや? 教室に居られなくて逃げてきたのか?」
「いや。教室に行く前に寄りましたのよ。とりあえずミルクティー貰えます?」
と、愛用しているベッドに腰を掛けながら飲み物を要求すると保健室の主たる保健医――天津四季先生が気怠そうにポットの残りのお湯でミルクティーを紙コップに入れて私に手渡す。その際、1時限目は? と、質問されたので即答で出ないと答えた。
「そか。ならちょうどいい。先生も色々と聞きたいことがある」
「ん」
ミルクティーを味わいながら片手をあげて”どうぞ”のジェスチャーをして答えと、四季先生は用意していたコーヒーを一口飲んでから鋭い眼光で私を睨みつけた。
「梨君が南帆君と瑞乃君を性奴隷云々にしてたって本当か?」
「――……」
気怠そうな雰囲気から一変し、あまりの剣幕に言葉が出ず――な、訳ではなく素で一部言っている意味が分からずに紙コップから口を離せずに固まってしまった。
「もう一度――」
「あっ、いや聞こえてましたよ? ただ聞き覚えのない単語が出ましてそれで固まってました」
「? セフレの方が良かったか?」
「そこは大丈夫。――聞き覚えのない方はその前。南帆さん? と、瑞乃さん? の方」
誰? と、頭を悩ませたが結局誰ですか? だった。
当の四季先生は私の問いが答えとなったのか浅い溜息を零していつもの気怠い雰囲気を纏う。
「親が親なら子も子か。お父さん似だなぁ全く。梨君のお父さんも人の名前を覚えようとしなければ本当に、いつまで経っても覚えなかった。……その代わり、覚えてくれれば忘れないんだが」
そう寂しそうに嘆く四季先生。実は四季先生は私の父なんかと幼馴染なんだとか。この学校で保険医をやっているのも私の父が息子の面倒を見て欲しいとお願いをしたかららしい。
「私は忘れられます。数年で! その気になれば三か月程度で忘れられますぜ!!」
「お父さんより悪化しよるな全く。……島之君と姫島君の事だよ」
「誰?」
「御冗談でしょ? ……え、マジ!?」
と、何故かすごく驚かれた。
島之と姫島? その単語を聞いても私の頭には誰も浮かんでは来ない。そんな私に四季先生は自身のスマホを取り出して一枚の写真を見せる。それには今まさにこのベッドで寝ている私がいて、その左右に女子2人が添い寝をしている写真だった。
――それでもまぁわからなくて頭を傾げてしまったけど。
「嘘だろ……ちょっと待て。知り合いの脳外に連絡する」
数分後。
「? ……! あぁいましたなぁそんなの。思い出した……って、なんです? その手の工具は?」
「いや思い出さなかったらこれでその頭をかち割ってやろうかと」
「医者の発想ではないねぇ」
「医者は医者でも何人も死なせたヤブ医者なもんで」
「――Oh」
そう自身を軽笑しながら工具をしまう四季先生の姿は些か魅力的に魅えた。一生懸命に誰かを助けようとしたのに空回りして返って悲惨な方へいき、それに気づけても病気を治そうとする患者を見捨てられず、また必要とされ続けてしまった結果、無念な結果になった四季先生だからこそ出せる魅了だ。
――夢破れて散った人間は素晴らしい。それが人生を掛けたものであればあるほど虚しく輝くっ! 心のチン〇が勃〇するッ!!
「私は――」
「いやいい。もういい……そんな不幸を糧にしてそうな顔つきでのラブコールはもういらん」
「あらあらまあまぁ。我が父に嫉妬してしまうなぁもう」
残念無念な気持ちをミルクティーの残り全てと共に飲み込み、用済みとなった紙コップを近くのごみ捨て籠に投げ入れ、改めて四季先生を見据える。
「さてと……それでは聞かせてもらいましょうか? 私が検査入院していた期間の出来事を」
「被害者のくせにすごく楽しそうだなぁ」
「んはは!」
楽しそう? そりゃあ楽しいです! なんたってつまらなかった学生生活の大きな転換点なんですから!!
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