入試終わり、鍋パにて

「ただいまー」


 次に耳に聞こえてきたのはそんな声だった。

 その声に俺は炬燵から跳ね起きる。横に見える七海はまだ気持ちよさそうに眠っていた。

 俺は帰ってきた京を出迎えるべく、寝起きそのままで玄関へ向かった。


「おかえり、お疲れ様」

「ふっ…、ありがと。ただいま…っ」


 京は何故か少し笑っている。


「おにぃ、寝てたならそんな必死に来なくても大丈夫だよ」

「え?いや…、べつに寝てないぞ」特に意味はないが、つい否定してしまう。

「いやいや、寝ぐせすごいよ。鏡見てみれば?」 


 ジト目で俺の方を見てくる。受験が終わってすぐの人とは思えない。


「えっと、入試はどうだった?」

「…。まぁ、いっか。うん。いつも通り解けたよ」

「それは良かった」

「やれることはやったし、あとは面接やるだけー」


 京はソファまで移動して伸びをしながらそう答える。


「取り敢えず、一旦お疲れ様。ゆっくり休んでね」

「はーい」


 少し経って、七海が起きて来る。


「え!?京ちゃんもう帰ってきてたの!?」

「うん。おはよー、おねぇ」

「帰ってきてたなら起こしてよー」

 

 悲しそうな顔をしてこちらを見つめてくる。


「ごめんね。気持ちよく寝てたから、起こすの悪いかなって」

「むぅ。まぁ取り敢えず、京ちゃん。お疲れ様!」

「ありがと、おねぇ」


 七海はそういうと、ソファにいる京に突撃しに行った。

 しばらく、二人はじゃれていたが、突然七海が立ち上がってこちらを見た。


「あ!もうこんな時間じゃん」

「ん?」


 俺も七海の視線につられて時計を確認すると、その針はもう6時をさしていた。


「準備しないと!」


 そう言って七海はパタパタとキッチンへ向かった。


「俺も手伝うよ。手伝うことある?」

「うん!ありがと!こっちの食材切ってくれると嬉しいな!」

「了解」


 俺もキッチンに向かい、鍋の準備を手伝う。


「んー?今日はお鍋なのー?」


 京もキッチンにテコテコとやってきて、こちらを覗いてくる。


「そうだよー。寒いからねー、京ちゃんにはあったかくしてもらわないと」

「みんな心配性なんだからー」


 そう言う京は少し嬉しそうにはにかんでいる。


「私も何か手伝うことある?」

「大丈夫だよ!しっかり休んで疲れとってね!」

「はーい」


 京は少し肩を落としてそのままリビングのソファへと帰って行った。なんだか、受験がひと段落して少し幼児化してないか?まぁ、いつも通りか。

 

「よし!できた!」

「七海、持っていくよ」


 鍋をミトンで持ち、リビングのテーブルに準備しておいた鍋敷きの上に置いた。


「「「いただきます」」」


「うーん。美味しいね!」

「だねー」

「久しぶりに食べたけど、美味しいな」


 みんなで美味しく鍋をつつく。鍋の温かさが、身に染みて、体をぽかぽかと温める。

 夢中で食べていると、鍋の中身は直ぐに無くなってしまう。

 三人とも食べ終わって、みんなで少し一息ついた後、七海が席を立った。

 

「京ちゃん!実はねー?」

「うん?」


 七海は冷蔵庫からケーキの入った箱を取り出してくる。


「あ!ケーキだ」

「うん!」


 俺は七海の行動に合わせて、鍋の片づけられた机の上に皿を置き、それぞれにケーキを配膳する。


「明人と一緒に買ってきたんだ!」

「二人ともありがとー」

 

 そうお礼は言いつつも京の視線は好物に吸い寄せられている。そろそろよだれが出そうな勢いだ。


「じゃあ、早く食べようか」

「はーい」

「やったー」


 ケーキを頬一杯に食べる京はとても幸せそうな顔をしていて、本当に買ってきて良かった。

 

「ふぅ…お腹いっぱい」

「よかったぁ…。美味しかったね!」

「うん。これで明日の面接も頑張れそうだよ」


 そう言って、京は大きく伸びをすると、立ち上がる。


「よし。明日もがんばろー」


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