残り一ヵ月にて

 冬休みが終わり、始業式のために俺は七海と登校していた。


「いや~、一月はやっぱり寒いね~」

「ね、冬休みよりも終わってからの方が寒いよね」

「だね~」


 俺たちはクリスマスにお互いプレゼントした防寒具を首に巻きながら通学路を歩いていた。寒さからか七海との距離はいつもよりも近かった。


「よう!二人とも!」

「おはようございます。日野君、七海」


 暫く歩いて学校に近づいたころ、二人から声を掛けられる。


「おはよう。翔太、青葉さん」

「おはよう!」

「二人とも冬なのに熱々だな!いてっ!」


 そうからかう翔太に否定できない俺は一度背中を軽く叩いてからまた歩き出した。


「冬休みも終わっちゃったなー、実は日付間違えてて後一週間ぐらい残ってないかなー」

「さっきからそればっかじゃないですか。諦めてください、もう終わったんですから」

「でもよー」

「まぁ、そろそろ修学旅行もあるし」

「そうじゃん!」


 そんな何でもない会話をしながら俺たちは学校に向かった。


 学校は始業式のみで午前中には終わっていた。そして始業式終わりの帰りのHRのこと。


「皆さん休み明けですが、来月の頭に入試期間があるためまた休みになりますので、覚えておいてください」


 そう担任の先生から伝えられる。後の連絡事項を言い終えると直ぐにHRが終わり、放課後になった。


「そっか、明人の妹さんはあと少しで入試か。京ちゃんだっけ」


 翔太が椅子の向きを変えてそう聞いてくる。


「そうなんだよ」

「お兄ちゃんとしては不安か?」

「…少しだけな、模試ではいい点数取ってて判定も問題ないらしいからそこまで心配はしてないよ」


 確かに不安や緊張はあるが、京の方が絶対に緊張もしているし、不安もあるだろうから俺が不安がったりしてては駄目だろう。


「明人、大丈夫?」


 そんなことを少し考えていると、七海が机の直ぐ傍まで寄って来た。


「ん?大丈夫だよ」

「んー」


 大丈夫だと答えると七海は少し考える様子を見せると、バッと両腕を広げてから俺の頭を手で掴んで自身の胸に手繰り寄せた。俺は急に起こったこの行為に対する驚きからか、その安心感からか、しばらく身動きがとれなかった。


「大丈夫だよ、明人。全然、大丈夫」

「…そうだね」


 七海はその体勢のまま、片方の手を背中に添えて、もう片方の手で俺の頭を撫でてくる。俺はそれをここが教室であることなんて忘れて享受していた。


「なぁ、二人とも…。イチャつくのはいいんだが、ここは教室だぞ」


 その翔太の言葉でやっと俺たちは現実に帰ってきた。焦って辺りを見渡すと、周りの教室に残っていた人達は目が合った瞬間に気を使って顔を背けていた。七海も焦って顔を赤くして何やらあわあわとしていた。


「取り敢えず、今日はもう帰るか…」

「うん…」

「じゃあ、またな翔太」

「お、おう」


 その雰囲気が耐えられなくなり、俺たちはそそくさと教室を出て行った。


「う~、やっちゃったよー!」


 校門を出て直ぐにそう彼女は叫ぶ。


「う、うん。ちょっと場所が悪かったね」

「あう~」

「でもすごくありがたかった。おかげで京の前でも普通にできそうだよ」

「それなら、まぁ、良かったかな。でも恥ずかしかった~」


 そう言って恥ずかしがっている七海を送ってから家に帰ると京はすでにリビングで黙々と勉強していた。


「あ、おにぃ。お帰り~」

「ただいま」


 京はペンを置かずにこちらを見た。


「今日はおねぇいないの?」

「残念ながらね」

「そっかー」


「勉強、頑張ってるな」

「うん。もうすぐだから」


 静寂が挟まりながらも会話を進めていると、京はおもむろにペンを置いて立ち上がる。すると、ゆっくりと俺の胸の方に頭をつけ、おずおずと手を伸ばして俺の背中に回した。俺は何も言わず今日の七海に習って片方の手を背中に回して、もう片方の手を京の頭に乗せて撫でる。

 どれくらい経っただろうか、しばらくして彼女は顔を俯かせながら離れた。そして顔を少し上げて俺の方を見る。


「ありがとね、あと少し頑張る」


 そう言って京はそそくさと席に戻ってまたペンを握った。

 俺はまた京の頭を軽く撫でてから彼女の邪魔をしないように自分の部屋に戻った。

 カレンダーを見ると入試まで残り約一ヵ月だった。

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