冬の日の一幕にて

 11月も後半。

 俺と七海は俺の部屋に一緒にいた。


「絶対に出した方が良いよ!」

「出したら動けなくなるから出すにしてもまだ我慢だ」

「えー!出した方が気持ちいいよ!」

「そうは言ってもな…」


 そう話しているとドアが急に開き京が入って来る。どうやら今は勉強の休憩中らしい。


「何の話してるの?」


 ジト目をこちらに向けて尋ねる。


「七海がもう炬燵出した方が良いって言うんだ」

「京ちゃんも炬燵出しても良いと思うよね!?」

「…はぁ。私はなんでもいいよ~」


 そう言うとそのまま扉を閉めて部屋から出ていってしまった。


「何だったんだ?」

「さぁ?」

「炬燵なぁ…」

「ね?おねがい、炬燵だそ?」

「んぅ…」


 そして、おれは10分弱にも及ぶおねだりに負けてしまい、結局炬燵を出すこととなった。


「確かここにあったはず…」

「あっ!これじゃない?」

「ほんとだ。よし!出すぞ」

「うん」


 押し入れから炬燵を引っ張り出した俺たちは、話し合って早速俺の部屋のど真ん中に置くことにした。


「ふぅ…、こんなもんかな」

「ねぇねぇ!早くはいろ!」


 そういって炬燵をセットしたらすぐに七海が入って行った。七海は炬燵に入るとすぐ固まった。そして真剣な顔でこちらを向く。


「あきと…」

「どうした?」

「まだ、あったかくない…」


 そんな彼女に思わず笑ってしまう。


「むぅ、笑うな~」

「ごめんごめん、なんか面白くて。もう少し温まるまで待とうか」

「うん…」


 そこからしばらく待って、暖かくなってから炬燵に入る。


「ふぅ…」

「あったかいね、これは人が出れなくなるわ」

「ほんとにね。もう出たくなくなっちゃったもん」


 炬燵にはこの魔力があるので、むやみやたらに出すとどんどんと人がダメになっていくのだ。


「ねね、ちょっと後ろに下がってみて」

「え?いいけど、どしたの?」

「まぁまぁいいからいいから」


 七海はそう言うと一旦炬燵から出て座っている俺の隣に立つ。俺はいまいち訳が分からないまま、取り敢えず言われた通り少し後ろに下がる。すると七海はその間、つまり俺と炬燵の間に入り込んで座った。


「えへへ、これやってみたかったんだ」


 七海は俺の前にすっぽりと収まると、こちらを振り向いてはにかんだ。この笑顔を見れただけで炬燵をだしてよかったと思えてしまう。俺は七海のお腹に腕を回すと、彼女はそれに応じるように俺の手を包み込んだ。彼女は上機嫌そうに左右に揺れていたので、俺はなんとなく後ろから少し体重をかける。


「むぎゅーー、何するのさー」

「なんか揺れてたからつい」

「もーしかたないなー」


とある冬の日の一幕であった。

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