過去編にて 3

 次の日教室に入ると、何やら違和感を感じた。別に教室の雰囲気が違うわけでも、知らない人がいる訳でもなく、ただただ視線のようなものを感じるのだ。


「よっす、おはようさん」

「おはよ」


 いつも通り翔太と挨拶を交わすのだが、その時にも変わらずに視線を感じる。その視線の元を探そうとあたりを見渡すと、教室の隅の席に座っていた片瀬さんと目が合った。


「――――ッ」


 目が合うとすぐに逸されてしまったが、視線の元は彼女で間違いないだろう。きっと昨日の事を言い触らされないか心配してるに違いない。


「はぁ…」


 これから彼女に特に周りに言い触らしたりしない事とかの話をしないといけないのかと思うと少しため息が出た。人気のある人と話すと考えると少し色々と面倒くさく感じてしまう。


「どうした?」

「いや…まぁ色々と面倒だなと」

「…?まぁ授業とか面倒だよな」


 やはり視線の件はその時だけに収まることはなく。

 授業の時でも、先生に当てられた訳でもないのにずっと見られている。そして、そちらを向いても、


「―――――ッ」


すぐに逸されてしまう。

 学食でご飯を食べる時でも、移動教室の時も常にその状態だ。いい加減どうにかしないといけないなぁ思いながら、気づいたら放課後になっていた。 


「じゃあまた明日な」

「おう、また明日」


 HRが終わり、翔太と別れ下校時間。

 道を歩いていると、後ろから足音が聞こえる。そして、大きく息を吸う音が聞こえると少し歩いた所で声がかけられる。


「えっと…す、すいません」


 やはり片瀬さんだった。周りの人に話が聞かれないように人がいない所を見計らって声をかけたんだろう。


「なんでしょう?」

「いきなりなんですけど、昨日の事なのですが…」

「誰にも言わないから大丈夫だよ。安心して」

「え?」

「え?」


あれ?昨日のことを誰かに言われないか気になっていたんじゃないのか?


「えっと…それは確かに言われると恥ずかしいので、言わないでいてくれると助かるのですが。そもそもそんな事考えてませんでした…」

「そしたらなぜ?」

「はい…ええと、昨日は挨拶してもらったのに走り去ってすいませんでした」

「はい?」


そんなことで?普段他の人に冷たく接している彼女がそんなことを気にしていているのが少し失礼だが意外だった。しかも、片瀬さんこんな物腰の柔らかい人だったっけ?


「えっとそんなこと?」

「え?あっ…はい」

「えっと…」

「…意外でしたか?」

「すいません」

「いや、大丈夫ですよ。自分でも普段の私は人に対して冷たいなって分かっていますから。でも、あれなんですよ?いつも家に帰った後、私態度悪かったなって少し後悔しているんです…」


少し苦笑いして彼女はそう答えた。


「でもなんで今回はこうやって謝りに来てくれたんですか?」

「いつもは私が恥ずかしがり屋なせいで気丈に振る舞って、そのせいで今更謝れないってだけですよ。ただ今回はもうあんな所を見られてしまったので…」

「すいません…」

「いや、日野さんが謝らなくても。ただ私が恥ずかしかっただけですので、すいません…」


 ひと通り話終えると、暫しの気まずい静寂がおきる。さっきまで驚きの方が強くて普通に話ができていたけれど今、自分がすごい状況にいるのだと自覚してしまうと上手く話せなくなる。ここは何か喋るべきだろうか?しかし話題がなく話を振ることもできない。そんなこと考えていると、


「えっと…日野さんも猫、お好きなんですか?」


 彼女が少し消極的に聞いてくる。


「あ…はい」


 いきなりの質問にタジタジになりながらも答えると、彼女はもじもじしながら少し考えた様子を見せると。


「日野さんは猫カフェってご存知ですか?」

「…猫カフェですか?」

「はい」

「いきなりでもし良かったらなのですが、今度の日曜日に一緒に行きませんか?猫カフェ」

「え?」

「いつかは行ってみたいって思っていたのですが。お恥ずかしながら、私はいつもの態度のせいで一緒に行く友達がいなくて…。かと言って一人で行くのも恥ずかしくて…」

「いいんですか?今日、初対面なのに。恥ずかしいとか…」


 そういうと彼女は少し驚いた様子を見せると、何か誤魔化すように返事をした。


「えっと…はい。大丈夫ですよ」


 こうして俺は彼女と猫カフェに行くことが決定したのだった。


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