過去編にて 4

 きたる日曜日。

 俺はいつもより少しお洒落して、隣町の駅前の時計台の下にいた。周りには同じ待ち合わせをしているであろう人々がちらほらとみられる。

 時刻は集合時間の15分前である11時45分を示している。猫カフェへの道のりを携帯で再確認していると、片瀬さんが駆け足で来た。


「すいません。遅くなりました!」

「いや、全然待ってないから大丈夫ですよ」


 時計を見てもまだ10分前の11時50分だったのでまったく遅れていない。


「じゃあ行きましょうか」

「はい」


 揃うと直ぐに二人で歩き出した。会話こそ少ないが、彼女の方をチラッと見るとこれから猫と触れ合えるのがよほど楽しみなのか雰囲気はいつもよりかなり柔らかかった。猫カフェに向かって歩き出して数分後、目的の猫カフェの前に着いた。


「ここであってますよね?」

「うん。ここで合ってると思いますよ」

「ちょっと入るの緊張しますね」

「確かに。新しい店とか入る時ってなんだか緊張しますよね」

「こうしてずっと前にいるわけにもいきませんし、入りましょうか…」


 そうして俺たちは猫カフェに入った。

 中に入ると繋がっている長いソファにちょっとした机がぽつぽつと置いてあり、真ん中の方にキャットタワーらしきものが置いてあった。


「いらっしゃいませ。二名さまでしょうか?」

「はい」

「こちらの席へどうぞ」


 店員さんに案内されて、席に座る。席に座るとすぐに足元に猫たちが寄ってきて、匂いを嗅いでくる。


「日野さん、日野さん、猫さんですよ!」

「う、うん…そうだね」


 彼女は猫を見て目を輝かせていて、とてもテンションが上がっている様子だ。


「にゃー?にゃ〜」

「みゃ〜」


 もう注文とか俺とかを忘れて猫と会話を始めてしまった。


「えっと、何か注文しなくて大丈夫?」

「あ!ごめんなさい。夢中になってしまって…」


 注文を済ませると、片瀬さんはまた猫と戯れ始めた。俺はその様子にほっこりしながら注文したリンゴジュースに口をつける。

 そして、少し時間が経った後、俺は軽い気持ちで会話を振った。


「片瀬さん。どの子がお気に入りとかある?」

「うん!このマンチカンのソラ君も可愛いんだけど、今のお気に入りはアメリカンショートヘアのこのイオンちゃん!」


 しかし、返ってきたのは屈託のないふにゃりとした可愛い笑顔だった。俺はそんな笑顔にタジタジになってしまい、返事をすることも忘れてしまっていた。

少し間が空くと、彼女は我に返ったのか、


「す、すいません。少しテンションが上がってしまって…」

「い、いや…全然。そっちの方が俺は素っぽくて可愛いと思います…」

「え!?」


 俺もさっきの片瀬さんを見て、よく分からなくなってきて自分でもよく分からないことを口に出してしまっていた。驚いた彼女は少しもじもじする。


「え、えっと…日野さんが望むのでしたら…できる限りか頑張る…よ?」

「え、あ、うん」

「でも私も素で頑張るから日野君もできれば素で接して欲しいな…なんて…」

「え?」

「ほら、和泉くんと話している時と私と話してる時でかなり違うじゃん…私には敬語だし…」

「えっと…じゃあ、とりあえずタメ口からで…」

「う、うん…タメ口の方が嬉しいなぁ…」


 なんで教室での俺の様子を知っているかなんて疑問も浮かばないぐらい、俺はこの時いっぱいいっぱいになっていて、全然上手く答えることができなかった。

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