第41話


———まぁ………そんな訳ねぇわな………。


帰るなり直斗は零の前に座らされている。しかもお互い正座で………。


「直斗、ちゃんと説明して」


零が直斗を睨む。

直斗は『言い訳をする』か『しらばっくれるか』か一瞬で悩み『しらばっくれる』方を取った。


「何を?」


「………何を……………?」


零の目が据わるのがのが分かる………。


———あ………俺……間違えてる………。


「違う、違う!まず何から?って事!」


直斗が慌てて零を抱きしめた。


「……そうやって誤魔化そうとしないでよ」


「してないよ……。零が聞きたい事はちゃんと答えるからさ」


そう言いながら笑顔を向け、『チュッ』と触れるだけのキスをする。

零が頬を膨らまし


「じゃあ、まず何のお店か教えて」


と相変わらず睨んでいるが、瞳が零独特の柔らかさを取り戻し始めている。


「………飲み屋……」


「飲み屋って…どんな?」


直斗は軽くため息をつくと


「ショットバー………康平とよく行ってる店」


蹴局、嘘をつくのをやめた。軽い嘘ならつくが騙すような嘘は吐きたくなかった。




「———そんなとこで高校生が働いちゃダメでしょ⁉︎」


「……そうだけどさ……」


───やっぱり…そうきたか………。


「でも、もう決まっちゃったしさ、ほら…急にやっぱりダメです…とか……迷惑かけるじゃん!?」


「それは……そうだけど……」


零が困った様に眉を顰めた。


───この調子だ!


「実際、酒飲むかって言われればそんな飲まないし…全然知らない店で働くより、安心じゃん!?気心しれてるしさ」

直斗がココぞとばかりに捲し立てる。


「まぁ……それも…そうだけど……」


「週末の二日間だけだから、零とも一緒にいられるしさ」


「でも……やっぱり…高校生がそういう所で働くのは……法律的にもダメだし……直斗がもし……本当に俺の生徒だったら絶対反対すると思うんだよね」


零が本当に困った様に上目遣いで直斗を見つめる。


───か…………可愛い…………。


「だいたい何でそんなバイトしたい訳?どうしてもお金必要なことあるなら、俺、貯金…………」


───ヤバい……もうダメだ………そう言えば……朝も途中でお預け食らってた……


直斗はそう思った瞬間には零を抱きしめキスをするのと同時に押し倒していた。


「…………んっ…………なっ何!?」


零が慌てて直斗のキスから逃げ驚いて声を上げた。


「零は俺の先生じゃなくて恋人だろ?……朝の続きしようか?」


直斗は逃げる零を捕まえると否が応なしに舌を絡め部屋着のズボンへと右手を滑り込ませる。


「───あ…………ちょっ…………」


抵抗しようとする零の手を押さえると肩に軽く歯を立てる。


「———あ…んっ……!」


艶を帯る声に直斗が嬉しそうに微笑んだ。零の感じるところを昨夜ちゃんと見つけ出している。


「ダメだよ……ちゃんと………話………」


シャツを捲り零の脇腹に舌を這わせると言葉とは別の熱い息遣いが加わった。


「ちゃんと話すから……」


直斗がそう言って舐めていたところに軽く噛み付く。


「———ンんっ‼︎」


必死で声を殺す零が身体を仰け反らせ直斗の背中に腕を回した………。




「……誤魔化されないからね………」


零がTシャツを着ながら直斗を睨みつける。


「誤魔化すつもりなんかないって!……ってか…もう服着るつもりかよ……」


直斗が裸のまま零の腕を引き寄せキスをしようとして、逃げられた。


「昨日からいっぱいしたでしょ」


零がまだ熱の残る肌をほんのり赤く染めて口を尖らせている。


「全然し足りないんだけど……?」


直斗が今度は逃げられない様に抱きしめ


「ベッド行って……話そ?」


優しくキスをした。




「………美味しい」


零がお土産のケーキをベッドにうつ伏せになり幸せそうに頬張っている。直斗はその様子を軽くため息をつき笑って見ていた。

あの後零を抱く迄に優に一時間はかかった。さすがに二度目はバイトの話が終わるまで指一本触れさせてくれなかったからだ。


「幸せ?」


直斗の質問に


「幸せ」


満面の笑みで答える。


「俺としてる時とどっちが幸せ?」


零は最後のひと口を口に運ぶと、首を傾げて「うーん……」と悩むフリをした。


「何だよ!悩むのかよ!」


直斗が不貞腐れると、クスッと笑い


「直斗に決まってるじゃない」


そう言ってキスをした。

直斗はやっと機嫌の良くなった零を抱きしめる。

結局、零になぜバイトしたいのかもちゃんと話した。案の定『生活費なんていらない』と言う零と真向勝負となり、最初お互い一歩も譲らなかったが、今回ばかりは譲れないと直斗が頭を下げ零が折れた。

そしてそのバーのオーナーが男で浮気の心配がないこと、(ゲイなのは言っていない)親も知っている店だからバカは出来ないことなど必死で説明し、お酒は必要以上に飲まないこと、仕事が終わったらすぐ帰ることなどを約束して何とか落ち着いた。

直斗が腕の中の零にキスすると甘いケーキの味がして思わず笑った。

それを見て零も微笑んで………。


———やっぱ…零は笑顔が一番可愛い……。


そんな事を考えて再び抱きしめた。

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最後の君へ 海花 @j-c4

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