第40話

「ノブの店かぁ………」


機嫌が悪くなった零を何とか二人で説得し、どうにか『学校を休まない事』を条件に納得させた。

直斗が微妙なため息をつく。知ってる店だし、客も知った顔ばかりでその辺には惹かれる。が……オーナーが『ノブ』だという所が正直気になる……。


「まさかノブくんだって、無理やりやる様な事はしないから大丈夫だろ!?」


隣で康平が笑うと


「無理やりやるって何を?」


また零が反応して、二人は顔を見合わせた。


「大した事じゃないから気にしなくて大丈夫だよ…零ちゃん」


今度ばかりは康平がすかさず口にした。

零は納得いかない様な顔をしていたが、取りあえず口を摘むんだ。友達同士の会話にあまり口を挟むのが憚れたからだ。


「別に……そんな事思ってねえけどさ……」


———そんな事って……何……?


零が二人の顔を交互に見ている。


「条件的には良いだろ?時給もいいし……酒はタダで飲めるし……」


———お酒……飲めるの……⁉︎


零の顔が険しくなる……。


「まあな………。けど、何でお前がそんな推すんだよ…?」


「えー……紹介料貰えるから?ちなみに一万だけど……お前なら三万」


康平がニッと笑う。


———紹介料一万⁉︎……直斗なら三万⁉︎……何で⁉︎


「………お前…………」


「いいじゃん!直斗もバイトしたいって言ってただろ⁉︎……一万はやるからさ」


直斗はしばらく康平を睨んでいたが、ため息をつくと


「…じゃあノブに電話してよ…。その代わり一万な!」


諦めたのか投げやりに言った。

康平が喜んですぐに電話をし始めると、零はどこまで黙って聞いていて良いのか悩み始めた。


———今の話………明らかに…おかしいよね………。普通のバイトで紹介料……しかも『直斗なら三万』て……。


「ノブくん、今から家来いって」


電話を切った康平が直斗に伝えると


「はぁ⁉︎今から…しかも家って……」


「軽く面接だってさ。俺も行くから心配すんなよ」


———心配って何の心配⁉︎


「……しょうがねえなぁ……。零、ちょっと行ってくるから少し待ってて?終わったらすぐ帰ってくるから」


直斗は立ち上がると、そう言いながら零の頬にキスした。


「…………あ……………」


結局零が口を挟む間もなく二人は出かけて行った。


———結局俺…………何も聞けてない…………。



※雇用条件

金曜と土曜の7時からラストまで。

時給 1500円 服装は自由(ジーンズ可)

※採用にあたって

客と喧嘩しないこと。

客に手を出さないとこ。(色んな意味で)

その手の客も多いから自分の身は自分で守ること(オーナーからも)

※正体が分からなくなるまで酔ったら持ち帰って良い事とします。



「なんだこれ……」


隣から康平が覗き込む。


「知らねえけど、渡された。あのおっさん待ってる間に作ったんだな……」


ノブの家からの帰り道を二人で歩いている。

直斗は無事採用となり、早速明日から来るよう言われた。


「お前絶対一ヶ月は続けろよ!じゃなきゃ金貰えねぇからな!」


康平に念を押される。明日から一ヶ月後に紹介料が貰えるからだ。


「そんな簡単に辞めねぇよ」


何しろ半月近く零の家にいて、生活費の事が気にかかってた。

手元に金が無い訳じゃなかったが、親から貰った金だということが気になりだしていたのだ。

家にいて遊んでいた時は大して気にもならなかったが、半(?)同棲みたいなことをしていて、これでは何とも情けなく感じる。


「零ちゃんになんて言う?」


康平が直斗の様子を窺う。


「あの様子じゃ帰ったら絶対突っ込まれるぞ?」


二人とも零が会話を聞いて怪しんでいるのは重々承知していた。


「まあな……」


まさかバイトするってだけであんな反応すると思っていなかった。


「あいつ……意外と真面目だからな……」


直斗がため息をつく。

まさか飲み屋…しかもオーナーがゲイ…でバイトすると知れば絶対反対される事は火を見るより明らかだ……。

今更『コンビニです』とも言えない。


「居酒屋って事にすればいいんじゃん?」


「……居酒屋って……高校生働けんの?」


「えー……知らね。大丈夫じゃねえの?後はお前適当に頑張れよ」


「お前………他人事だと思って……」


直斗は頭を抱えながら康平と別れると、コンビニでケーキを買ってから帰った。


———零の機嫌が悪くありません様に………。


















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