第25話 他人の振り

 でっかくロゴが入っているワンピースなので、ほとんどブランド品を知らない奈々でさえそれがわかる。お金持ちなんだろうなぁとわかるがセンスの程はよくわからない。鷲鼻の、目鼻立ちのはっきりした、個性的な顔立ちの女性だった。くろぐろと豊かな髪は後ろで一つに大きなバレッタでまとめている。

 その、よくも悪くも目立ちそうな外見の女性がまっすぐにこちらへ歩いてくるのだ。そりゃあもう、怖い顔だった。

 しかし奈々は知らない人なので、わけもわからずキョロキョロするしかない。

「この!!泥棒猫!!よくも昼日中っから人の亭主を呼びつけたりして!!」

 店内どころか外にまで響き渡るような怒声だ。極妻さんも真っ青じゃないだろうかというほどの迫力だった。

 そして、その怒声は明らかに、奈々に向けた放たれたものだった。

「へ!?え!?え!?わ、わたし?なんで?てか、誰?どちらさま?」

「あたしはその男との妻よ!!こんな日曜日の昼間っから逢引なんかして!!許せない!」

「へー、加東さん奥さんがいたんだー・・・知らなかった。・・・って、逢引!?わたしと!?いやいやいや」

「責任取って貰いますからね!!慰謝料500万!!いいえ、足らないわ、一千万よ!!」

「いやいやいや、わたしは違います。人違いです。」

 両手を振って否定する。全身全霊で否定する。だってそれは事実無根。奈々は加東とつきあっていない。それは友人の有咲であって、自分ではないのだ。

「そんな紗友里さゆりちゃん、逢引なんかじゃないよ。ちょっと用事で呼び出されただけなんだ、やだなぁ、紗友里ちゃんはヤキモチ焼きでー。」

 張本人である加東は、呑気にもそんなことを口にしてニタニタと笑いだしたではないか。そんな曖昧な言い方じゃなくて、はっきりと言ってくれ。自分が付き合っているのは奈々ではなく別の女なのだと!!  

「誤解です。わたしは、ただの同僚で・・・」

 落ち着いた声で、はっきりと言おうとすると、加東が横から口を出す。

「そうそう、たまに送ってやったりご飯食べたりする程度だからー。」

 余計なことを言うなぁ!!と喉まで出かかった。

 早く有咲戻ってきてくれないだろうか。なんで自分が彼女の代わりにこんな目に遭わねばならないのか。ふと周囲を見回すと、まだ残っていた客が野次馬根性むき出しに注目しているし、店員たちも騒ぎを起こされて迷惑そうにこちらを見ている。

 そして、その店員たちの影の方から、なんとも複雑そうな表情の友人が、他人のふりをしてそこに立っていた。

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