第22話 頭を抱える
「あやしいわね。・・・さては、加東さんと親しいんじゃないの?」
「ふつーだよ。本当に、単に、本当に同じ職場だってだけ。直接仕事で関わりがあるわけじゃないし。」
疑惑の目で見つめられていると、せっかくのランチも味がしなくなってしまう。
手が止まった奈々とは裏腹に、有咲はさっさと食事を食べ終えて丁寧に口を拭う。それから、徐に携帯電話をバッグから取り出した。バッグを膝に乗せ、携帯を操作し始める。
その動作に気がついた奈々が顔を上げた。有咲の携帯に着信があったのだろうか?いや、そんな様子はなかったし、音を消しているのなら気付くはずがない。とすれば、自分から誰かにかけているのだろうか。
食事中なのに、誰かに電話をかけるなんて、珍しい。
思わずフォークを置いて、尋ねる。
「・・・誰に電話かけてるの?有咲。」
「決まってるじゃないの。」
「まさか・・・。」
「加東辰巳本人よ!説明してもらおうじゃないの。」
「ええーっ!!よしなよ。加東さんと話すのなら、わたしは帰るから、それからにしてよ。」
「あんたがここに居たほうがはっきりするから、帰っちゃ駄目。」
勘弁してくれ。
顔から血の気が引くような気がした。
そんな修羅場に居合わせるのは御免だ。
奈々のことなど考慮してもらえないのか、友人は繋がった相手と会話をはじめた。
「うん、そう。場所は、・・・そう、前に来たでしょ。今すぐ。わかった!?」
彼女が通話している間に席を立とうと思い、奈々はテーブル下の荷物カゴのバッグに手を伸ばした。なのに、手先が空を切るばかりだ。
「げっ」
荷物カゴの中は空っぽで、奈々の荷物がない。
かがんで覗き込んで見れば、有咲の足元で、彼女の両足に挟まれているではないか。さっき、携帯電話を取り出す時に、そのまま持っていかれたらしい。
「ちょっと・・・!有咲・・・!!」
立ち上がって声を立てると、
「うん、そうなの。どうやらあなたの同僚と偶然にも一緒になったの。岸塔奈々って知ってるでしょ。色々事情を聞きたいから、ええ。」
うわ、有咲はとうとう自分の名前まで相手に言ってしまった。
思わず頭を抱える。
これでは、この場を逃れても、出勤した時に加東に何か言われるではないか。
もう逃げられない。
携帯電話を切った友人は、にっこりと笑った。
「すぐにすっ飛んで来るそうよ?まさか、そんな人を置いて逃げたりしないよねぇ?」
笑顔が怖い、とはこの事だ。
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