第20話 ふたまた

 昼間なのでアイスティーで乾杯して、奈々は水を向けた。

「で、どんな人なの?素敵な人?優しい?」

 有咲は嬉しそうにうん、と言って笑った。

「じゃあ、もう有咲の中ではプロポーズ受けるって決めてるんだー。よかったねぇ。好きな人からそう言ってもらえるなんて。」

「いや、まだ、一応、保留・・・。考えさして、って言っておいたの。」

「え?どうして?何か問題でも有るの?」

 今の今まで喜色満面だった彼女の表情が急に曇った。

 なんだかその変化が怖くなる。あれ、今日はいい話って奴なんじゃないのか?予想外の雲行きになりそうで、奈々は少し焦った。

「あ、あーでも、ほら、男の人って、少しそうやって焦らしたほうが、奥さん大事にするらしいしね。うん、さっすが有咲だ、わかってるぅ。」

 天気は快晴のはずなのに、なんだか辺りが暗くなってきたような気分になる。それを振り払うように、奈々は必死で明るく振る舞った。

 若いウェイターがランチを運んできた。二人の前に、美味しそうな食事が出されると、思わず、美味しそう、と声が出てしまう。

「食べながら、話すよ。頂きます。」

「そう、だね。頂きます。」

 合掌した友人に倣って、食事に手を付ける。



「実はさ、どうも、彼ってモテるんだかなんだかで。」

「うん?」

「二股かけられてる気がするような、しないような・・・。」

 口に入れたミニトマトが、口内で弾ける。中々に甘いそれを味わいつつ、奈々は相槌を打った。

「彼、銀行員なのよ。だから忙しいから余り会えなくて。やっぱり銀行ってそんなにも忙しいもん?奈々も同業だからその辺り詳しいでしょ?」

「あー・・・うん、結構ブラックよ?その分、まあ、お給料もいいんじゃないかな。残業多い人ほど出世コースって言うらしいし。」

 本当の所はよくわからないけど、他の女子行員がそう噂しているのを聞いたことが有ったので、それをそのまま伝えた。

 添えてあるサラダを口に頬張りながら、有咲が呆れたような口調で言う。

「奈々を見てると、そんな風に見えないんだけどなぁ・・・。」

「わたし仕事できないもん。出来る子は女子でも残業多いんだよ。だから銀行員って職場結婚多いんだってさ。出会いが少ない上に、他業種だと仕事を理解してもらいにくいからだって。」

「ん〜、そうなのか。」

 いつもハキハキしている有咲にしてはどこか歯切れの悪い様子だ。

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