第18話 お洒落なお店

「ね、今夜よかったら夕食でもどうかな?」

「え・・・」

 急に言われると困るのだ。

 申し出は嬉しいが、急だと対応できない。

「すみません、急なお話だと、ちょっと無理なんですよ。せめて前日から言って頂けないと。」

「そうなの?厳しいんだね。」

「厳しいっていうか・・・」

 実母の面倒を見くれるヘルパーさんの延長をお願いしないと、帰宅時間を遅く出来ないのだ。母は障害が有るから、一人では生活できない。食事や入浴、排泄も、一人では出来ないのだから。

 一度、母親自身が、大丈夫だからと言って夜遅くまで一人にしてしまったことがある。その日は入浴はしないでいいから、と言って。でも、トイレに行けなくて膀胱炎を起こしてしまったのだ。

「じゃあさ、週末どうかな?金曜日の夜ならいいでしょ?」

 加東は楽しそうに誘ってくる。

 お局のことがなければ、奈々だって否やはない。車で送ってもらっていたお礼もしたかった。

「わかりました。そのように母に伝えます。前に自宅まで送ってもらっていたから、そのお礼もしたいので、是非、ご馳走させて下さい。」

「いいよ、そんなの。誘ったのはこっちだから。じゃあ、約束ね。」

 奈々は気軽に頷いた。

 別に、デートとかそういう気持ちだったわけではない。車で送ってもらった時の礼をしたかっただけだった。



 奈々は、残業している加東を最寄りのコンビニエンスストアで待っていた。一時間で済むと言うので、ぼーっと散歩して、飲み物を買おうとコンビニに入った。待ち合わせたコンビニは駐車場がとても広いので、加東が指定したのだ。

 雑誌を立ち読みしていると、背後に誰かが立つ。

「岸塔さん、お待たせ。」

「お疲れ様です。」

 駐車場の車へ乗り込んで向かった先は、ちょっと小洒落た個室のある他国籍居酒屋だった。

 加東はお洒落な場所を知っているのだなぁ、と感心しながらメニューを見る。創作料理も多く、面白そうな料理が並んでいるが、それだけにお値段もいい。ファミレス程度の金額では済まなそうだ。

 自分に会計が出来るだろうかと、思わずハンドバッグへ視線をやった。

 すると、それに気がついたのか、加東が笑う。

「俺がご馳走したいんでここ誘ったんだから。お金のことなんか気にしないで。」

 いやいやそれでは、本末転倒だ。

 と思いつつ、万が一、手持ちが足らなかったら甘えてしまおうと思う奈々だった。






 

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