第8話 華やかな友達

 学校の授業の合間に、学食でお昼を食べる。

 ぼんやりとうどんをすすっていた奈々の隣に座ったのは、友人の有咲だった。

「おっはよ奈々。」

 有咲の声は、この時間の挨拶としてはいささか不似合いなので、それを指摘する。

「もう、お昼だよ。今、学校来たの?」

 彼女は悪びれる様子もなくA定食をテーブルの上に置く。

 A定食は学食で一番お高い定食だ。奈々は一度も食べたことがない。

「午前中の授業が急に休講になったんだわ。だから、実は学校に来たの今日は二回目なのよ。奈々ってば、なんかぼーっとしてない?なんかあった?」

 友人に心配されることは有り難い。

 けれども、相談していいかどうかは迷う所だった。奈々の事情は特殊だ。普通の女の子である有咲には理解し難いだろう。

「何よ、言っちゃいなさいよ。別に何かしてやれるわけでもないけどさ。まあ、無理にとは言わないけど。」

 それだけ言うと友人は割り箸を割って、定食の味噌汁に手を付ける。

 こういうところが、有咲のいいところだろう。話してごらん、と言いながら無理矢理に聞き出そうとはしない。お節介なようでいて、押し付けがましくはない。

 学歴上では長い付き合いだが、短大に来てから親しくなった彼女の長所は、過干渉を嫌う奈々にとって有難かった。

 うどんを食べ終わった奈々が、どんぶりの上に箸を揃えて置いた。

「・・・有咲はうちの状態を知ってるんだよね。」

「うちのって、お母さんのこと?知ってるよ、だって、奈々のご両親の事故って修学旅行の時だったんもん。よく覚えてる。奈々大変なんだろうなって思うし。」

 大変なんだろうなと思うのに、遊びには誘うのか。

 奈々にはその辺りの感覚がよくわからない。同情してくれているのなら、どうして合コンへ行こうとか遊びに行こうとかいうのだろう。大変だと知っているなら、気楽に外出などそうそう出来ないことくらいわかりそうなものだ。

「大変なんだろうなって思うけど、だからと言って塞ぎ込んでばかりいるのは違うと思うんだよね。だって、奈々は若いんだよ?花の女子大生って奴よ?そりゃ、辛いことあると思うけど、だからといって、楽しめることを諦めちゃ駄目だと思うんだよ。後で絶対後悔することになるからさ。」

 周囲にはたくさんの学生が行き交う。食べ終わった学生、これから食べる学生、食べないけど座ってお喋りしたい学生。綺麗に化粧を施し、着飾って、明るい未来へ向かって生きている。若い女の子達はみんなとても華やかだ。

 そんな女子の一人である有咲が、そんな女子の一人ではないと思っている奈々にそう言った。

「・・・まあ、だからといって、何がしてやれるわけでもなんだけどね。」

 あはっと軽く笑って、有咲が奈々を見た。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る