第6話 親と会う。
「ごめんなさい、いきなり声を掛けられてびっくりしましたよね。」
強張った表情のその女性は、よく見れば随分と目上だ。
「はあ」
なんと答えていいかわからない。そもそもなんでこの人は自分の名前を知っているのか。それがわからなくて困った。
「川幡慎吾の姉です。あなたの事は弟から聞いていまして。」
「そうなんですか。・・・川幡さんの。」
知っている名前を聞いて少し警戒心を解いた奈々は、はじめてマジマジと相手を見た。似てるかと言われれば似てないこともないが、弟とはちょっと印象が違っている。
「弟と付き合っているんでしょう?弟には子供がいること、ご存知?」
川幡はこんな風に単刀直入に話題を主題へ持っていかない。どちらかと言えばまわりくどいタイプだ。お姉さんは随分とはっきりとしている。
「はい、あの、障害のある小さな男の子がいらっしゃると。」
「まあ、そこまでご存知なのね。」
「わたしの母も、障害者なので。」
奈々の言葉に、女性の表情が変わる。
その変化は良い意味なのか、悪い意味なのかわからなかったけれど。
川幡の姉と名乗る女性がにわかに、親しげになった気がした。
一緒に講演会に参加した後、川幡が食事に誘った。午前中に終わったので、ランチが出来る。
「よかったら、君のお母様に会わせてくれないかな。うちの子も身障者だけど、必要な介助がうちと同じだよね。」
その時、奈々はどんな顔をしていたのだろうか。
普通に付き合っている男女なら、相手の親に会わせろなどと言われたら、
柔和な顔立ちの川幡は、少し気遣いな様子で尋ねていた。
その表情からはとうてい求婚などというロマンチックなものは想像出来ない。
お互いに介助をする者同士、何か発見が有るかも知れない。あるいは、わかり合える何かがあるかもしれない。そんな思いだと、奈々は感じた。
「じゃあ、母に電話して聞いてみましょうか。今日、会ってもいいかどうか。」
「本当かい?それは嬉しいなぁ。」
ランチを済ませてすぐに実家へ電話をかけると、母親はひどく驚いた様子だったがすぐに川幡が訪ねてくることを快諾した。
偶然にも、昨日は家の掃除をしておいたから、よかったと思った。
そして、自宅へ向かう道すがらに気付く。
奈々が自宅へ異性を連れて帰るなんてはじめてのことだと。
だから母親があんなにも狼狽していたのだ。
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