第4話 途切れた日常
講演会の後、川幡に誘われて食事に行った。
普通のファミレスで、たくさん話をした。自分の親のこと、そして、彼の事情などを互いに教え合って、役に立つ情報を共有しようとした。
「僕はバツイチでね、長男が障害を持っているんだ。」
「お子さんが・・・。大変ですね。」
「君と同じだよ。それが普通になってしまえば、大変だけどどうってことないんだ。」
3歳になる男の子で身体に障害が有り、将来、支援学級にしようか普通学級に行かせるか迷っているのだそうだ。今は施設に通っているが、親のケアは必須だという。
奈々は彼に同情した。
彼も、奈々に同情してくれた。
お互いに、大変だけどがんばろう。
会う度に食事代を支払ってくれる川幡は公務員で、経済的には困っていないようだった。
本当は四年生大学に行きたかったけれど、そんなお金がなくて短期大学へ進んだ奈々から見れば、ちょっと羨ましく思えてならない。やがては、自分が生活に困らないような仕事を選んで、母親を養っていかなくてはならないのだから。
「・・・その、失礼かも知れないけど、お父さんはいらっしゃらないのかい?」
「数年前に、事故で亡くなりました。」
「そう・・・。」
その事故で、同じ車に乗っていた母親は身体障害者となり、実父は死んだ。事故の当日、奈々は修学旅行先にいた。楽しい旅先で聞いた訃報が信じられず、病院で変わり果てた姿の両親と再会するまで、何かの間違いだと疑っていたくらいだ。
駆けつけた親戚は母方の叔母が一人だけ。父方の親類とは会ったこともない。
奈々の両親は駆け落ち同然に結婚していたからだ。
事故の際に、多額の保険金が支払われたから、どうにか生活は成り立っている。
「たまには息抜きに出かけたりしようよ。」
「息抜き・・・。」
誘われて、何度か一緒に映画を見たり、コンサートへ行ったりした。
川幡と出かけることで、事故の後、母の世話と生活することでいっぱいいっぱいだった奈々の気持ちの中に、以前のような気持ちが蘇った。
事故が起こるまでは、他の生徒と何も変わらない、平凡な女の子だった。勉強は苦手だが、学校が楽しい、そんな女子であり、友達と遊ぶのが何より面白くてたまらない。だから、大学進学もその延長上にあると信じて疑わなかったし、それが当然だと思っていた。同級生の友達と出かけたり買い物に行ったり、彼氏の話で盛り上がったり、流行を追いかけたり。
そんな奈々の日常は、突然、途切れた。その時の友達は、もう友達ではない。
でも、川幡と出かけると、当時の楽しかった思い出を思い出して。
彼と一緒にいると楽しかったのだ。
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