第2話 既婚者キラー

 ああいう手合は何故か跡を絶たない。

 奈々は今年で28歳になるのだが、かなり若い頃から年配の男性に言い寄られた。

 そして、大概言い寄ってくるのは既婚者だった。

  マンション買ってあげるから囲われる気ない?

  お手当上げるから付き合おうよ。

  妻とは離婚寸前なんだ。付き合って欲しい。離婚したら一緒になろう。

  子供いるけど独身だよ。彼らのお母さんになってくれないか。

 飽きるほど言われてきた台詞の数々。一体自分をなんだと思っているのだろうか。

 誤解無きように言わせてもらいたいのだが、奈々の方からアプローチしたことは一度もないのだ。

 若くて39歳、最も上で75歳の男性に口説かれた過去を持つ28歳の女子銀行員は、もしかして自分だけではないだろうか。

 奈々の外見は良い方だ。容姿にはそこそこ自信が有った。だって、みんな年上とは言っても若い頃から男性にモテたので、まあそこそこには綺麗なんじゃないかと自分でも思っている。

 ただ、そこそこなので、同年代の異性にはモテない。まあ、その程度である。

 老け顔という奴で、中学生の時に自宅へやってきた飛び込みセールスマンに奥様ですね、と言われたことがある。いつだって、実際の年齢よりは上に見られていた。現在もきっと、初対面の人には、実年齢よりも10歳くらい上だと思われているんだろう。老け顔コンプレックスだったが、もう慣れた。

 顔以外にも、なんとなく生活感の滲み出る感じが年上に見られてしまうのだろう。

 奈々には結婚願望もないし、希望する夢や将来の展望もない。そういうところが、若く見えない原因かも知れない。

 何故なら奈々には身体に障害を持つ母親がいる。実家で同居しているし、これからもずっと面倒を見なくてはならない。それが嫌だとか、不幸だとか、別に思ってもいない。そういうものなのだ、と言うだけの話だ。

 そんな奈々にも、過去にはお付き合いした男性がいた。

 まだ若かったその当時は、その男に言われるまま、結婚してもいいかなぁと思ってしまった。

 だって、その男は、奈々の事も奈々の母親のことも全部ひっくるめて好きだから、などと言うのだ。だから付き合ってくれと言われて、はじめて交際した相手だった。


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