「お前を追放する」追放されたのは俺ではなく無口な魔法少女でした

第50話 一緒に仕事してみた

「きょ、今日は宜しくお願いします！」

　杖を両手で持ち、ペコリと頭を下げた少女、亜麻色の髪に青い瞳を持つ。彼女の名前はエミリー。以前ちょっとした縁もあり仲良くなった魔法使いの少女だ。

「ああ、こっちこそ宜しく頼むな」

　先日、俺とテレサは港街の警護の仕事を請けていたのだが、その時に色々あってそれなりに仲良くなったのが彼女だった。

「私、ガリオンさんとまた一緒に仕事が出来て嬉しいです」

　彼女は目をキラキラと輝かせると嬉しそうに俺に話しかけてきた。このような表情を向けられると、こちらも悪い気がしないとともに、若干の気まずさが蘇ってくる。

　――コツコツコツ――

　床を杖で叩く音がして振り返ってみると、テレサが半眼で俺たちに絡みつくような視線を送っていた。

　自分だけ疎外されているように感じたのだろうか、眉根を吊り上げ不機嫌そうにしている。

「あの……テレサさんも、その……宜しくお願い致します」

『…………』

　エミリーは肩を縮こまらせビクビクしながらテレサに挨拶をした。

『まあ、仕事ですから。宜しくお願いします』

　彼女は空中に指を走らせると文字を描く。その様子から不満げなのがありありと見て取れた。

「警護の時といい、すまないな」

「いえ、あの時も別に……突然着ぐるみに押し込められはしましたけど、必要な役割でしたから」

　エミリーもまたテレサに苦手意識を持っているようだ。深海祭の時、着ぐるみの中身を交代させられていたし、その後もちらほら絡んでいたのを見ている。

「そう言えば、テンタクルスに絡まれた後は問題なかったか？」

　放っておけばいつまでも二人気まずい雰囲気を垂れ流しそうなので話題を変える。俺は深海祭の話をした。

「ええ、あの時の触手は気持ち悪くて、本当に泣きそうでしたけど、ガリオンさんが助けて……くれましたから……」

　頬を赤く染め、潤んだ瞳を俺に向けてくる。その真っすぐな好意を含んだ視線を受け、俺は頭を掻いた。

「別に、冒険者として必要なことをやっただけだ。仲間がピンチなら助ける。当然だ」

　あの後、散々御礼を言われたので、むずかゆくなってくる。

『そんなことより、そろそろ目的地に向かいませんか？』

「おっと、そうだったな」

　俺とエミリーが話をしていると、間にテレサが割り込み仕事をしろと訴えかけてくる。

「そんじゃ、ひとまず出発するとするか」

「はい、そうですね！　行きましょう『ユニコーン』の捕獲に！」

　エミリーが返事をすると、俺たちは近くの森へと向かった。

「はぁはぁはぁ」

　エミリーの呼吸が乱れている。

　ここは、普段は人が立ち入らない森の奥なので、道というものが存在せず草木や倒木を避けて歩くので体力の消耗が激しい。

　ましてや、魔法使いの少女なら段差を乗り越えたりするだけで足を取られそうになるので、付いてくるだけで必死だろう。

「二人とも、大丈夫か？」

　俺は振り返ると二人の様子を見る。

「だい……じょうぶ、です」

　エミリーは息を切らせながらもどうにか返事をし、テレサはコクリと頷く。

　本来なら、エミリーを連れてくるべきではないのだが、ユニコーンを目撃したのは彼女だけなので無理に同行してもらっている。

「はぁはぁ……もうすぐ、着きますから」

　途中、休みたいともいわず気丈に振る舞う様子に好感を持つ。今回の件、別に彼女は俺の頼みを拒否することもできたのだ。

『ガリオン、見過ぎです。そんなにあの娘のことが気になるのですか？』

　テレサは杖で俺の背中を突くと、唇を尖らせている。女性をあまりジロジロ見るものではないと忠告しているのだ。

「ああ、悪い。ただ、彼女は俺たちほど旅慣れていないからな」

　同じ冒険者なのだが、ランクに違いもあるし、普段受ける依頼も彼女は採取専門だ。

　以前採取依頼でこの森の奥に入ってしまい、そこでユニコーンを目撃したと告げてきた。

『……どうせ、私はか弱くありませんけどね』

　プイと顔を逸らすテレサ、その先に……。

「おっ、目標発見！」

　二本の捲き角を生やした白馬『ユニコーン』がおり、横ばいになり寛いでいた。

『早速、捕獲しましょう』

　テレサは素早く文字を走らせると、いつでも魔法を放てるとばかりに杖を揺らす。

　彼女は天才魔法使いなので、高威力の攻撃魔法から相手を傷つけずに捕獲するような魔法まで操ることができる。

「はぁはぁ、私は補助に入らせてもらいますね」

　エミリーも息を整えると対象を見る。当初の作戦では、不意打ちによる魔法攻撃で相手の機動力を奪う作戦だったのだが……。

「いや、まて。二人とも落ち着け」

　俺はその方針を放棄することにした。

『何故です？　今ならあのユニコーンも油断しています。作戦の成功率は高いかと』

「そうですよ、ガリオンさん。出発前に話したじゃないですか、今は一番良い状況ですよ」

　完全に油断している状況を逃せば好機はない、確かにその通りなのだが俺は奥で寛ぐ白馬を見る。奴が俺の知っている存在なら、より確実な機会を手に入れることができるからだ。

　俺は二人を見回す。どちらも焦れており納得のいく答えを返さなければ強硬しかねない。

　そんな二人に向け、俺は勘違いしていた事実を告げる。

「あれ『ユニコーン』じゃなくて『ユリコーン』だぞ」

「はっ？」

『は？』

　二人の疑わし気な視線が俺を貫いた。