第47話 紹介してみた
「いつもごめんなさいね、ガリオン」
頭を下げられると、妙に気まずくなる。
彼女はここの孤児院の先生のクラリス。年のころは三十を超えたか超えないかくらいなのだが、笑った姿に少ししわが寄っている。
「いや、別にたいしたことないさこのくらい。いつでも稼げるからな」
手を振っておざなりな態度を示す。
「そんなこと言って、大変な仕事をしているのでしょう?」
心配そうな瞳が俺に向けられる。
「いや……、別にそんなに苦労はしてねえけど」
冒険者家業を楽しんでやっている。好きな場所に行き、好きな物を食べ、あいつと肩を並べて歩く。
他の冒険者と比べれば自由で稼ぎも良いので、決して嘘を言っているわけではない。
「最近は他の冒険者とパーティーも組んだからさ。そんなに危険もないんだよ」
「まぁ!? あの協調性のなかったガリオンがパーティーを? それは是非あってみたいわね」
大げさに驚いてみせるが無理もない。彼女は俺を小さいころから知っているからな……。
「まあ、色々と難しい奴なんで一言では説明できないけど、その内もしかしたら会うこともあるかもな?」
あいつを連れてくる予定はないが、無下にするのも良くないと思い、適当にはぐらかしておいた。
「あなたは、もっと自分の幸せだけを考えても良いのよ?」
クラリス先生から視線を向けられると、どうにも落ち着かなかった。
彼女が俺からの寄付を申し訳なさそうに受け取るのを見るたび、お互いに遠慮しなければならない空気が流れるのが俺は嫌だった。
「あのなぁ、先生。俺だってもう成人してるんだ、いつまでも子ども扱いを――」
これ以上、このような視線にさらされたくなかった俺は、一度はっきりと告げようとすると……。
「先生! 侵入者を捕まえたぜ!」
「こらっ! リドル! お客さんの前ですよ!」
「ガリオン兄ちゃん!」
俺の姿を認めるなり、リドルが俺に飛び込んでくる。
「えっ! お兄ちゃん来てるのっ!」
「リドルばかりずるいっ!」
キャシーとリンも部屋へと入ってきた。
「まったく、あなたたちは……」
クラリス先生が顔に手を当てて呆れた様子を見せる。
「それで、お前たち。侵入者ってなんだ?」
俺が三人の頭を撫でまわしながら聞くと……。
「すぐ連れてくるっ!」
褒めて欲しそうな顔をしてリドルがドタドタと廊下を走っていく。慌てて追いかけるキャシーとリン。
「まったく、あの子たちはいつまでたっても落ち着かないんんだから」
「まあまあ、ああ見えて年長組としてしっかりやってるみたいだし」
「あの子たち、ガリオンに憧れているから冒険者になりたがってるのよ……」
心配そうな声を出す。俺にはあいつらの気持ちが理解できる。
冒険者は自由で、何より稼げる職業だからだ。
リドルたちは冒険者になって金を稼ぎ、この孤児院を立て直したいと考えているのだろう。
「それで侵入者を捕らえたってか……」
近所の子供かそれとも配達の人だろうか?
いずれにせよ、謝るのはクラリス先生の仕事なので、俺は苦笑いを浮かべながらあいつらが戻ってくるのを待った。
廊下をずるずると引きずる音が聞こえてくる。どうやら相手は無抵抗らしく抗議の声一つ上げない。
「連れてきたぜ!」
リドルの誇らしげな声とともに侵入者が部屋に運び込まれる。
網でぐるぐる巻きにされており、涙目になり顔を上げて俺を見るそれは……。
「テレサ……そんなところで何してるんだ?」
俺の冒険者の相棒である魔法少女のテレサだった。
「本当にごめんなさい」
クラリス先生が頭を下げる。
リドルは頭を絨毯に押し付けられ、キャシーとリンがそれに倣う。
テレサは慌てるとワタワタと両手を動かし、慌てた様子を見せていた。
「別に気にしてないみたいだし、先生も頭をあげなよ」
テレサが見上げると「ガリオン、何とかしてください」と訴えかけてくるので、俺は間にはいるとクラリス先生にそう告げた。
彼女は頭を上げるともう一度申し訳なさそうにテレサさに会釈する。テレサは俺の服をぎゅっと掴むと背中に隠れてしまった。
「えっと……」
気まずそうな声を出すクラリス先生。
「そうだ、お前たちにおもちゃとお菓子を土産に買ってきたんだ。食堂に置いてあるからな」
「マジ⁉」
「やったあっ!」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
ドタドタと三人が出て行く。俺はあらためてクラリス先生にテレサを紹介する。
「こいつが、今俺とパーティーを組んでいるテレサ。こんななりをしているが、凄腕の魔法使いだよ」
先程、リドルたちに掴まっていたので説得力はないが、事実なので告げておく。
「まぁまぁ、こんな可愛らしいお嬢さんがガリオンの仲間なのね?」
先程までとは違い、興味深い視線をテレサへと向けるクラリスさん。
テレサは状況はよくわかっていないらしいのだが、ひとまず会釈をして俺を見た。
「彼女はこの孤児院を経営しているクラリス先生だ」
俺はテレサにもクラリス先生を紹介しておく。
彼女は俺の答えを聞くと目で訴えかけてくる。おそらく『なぜガリオンが孤児院に?』とでも聞いているのだろう。
「俺はここの孤児院の出身でな。時々こうして差し入れを持って遊びにきてるんだよ」
テレサな首を傾げると、
『えっ? でも、ガリオンは田舎の村の出身だったのでは?』
初対面の時の挨拶を覚えていたらしい。
「あれは実は適当な自己紹介だったんだよ」
目付きが鋭くなる。どうして嘘をついたのかと問い詰める時のものだ。
「それより、どうしてここにお前さんがいる? 今日は宿でゆっくり休んでいるんじゃなかったのか?」
俺が逆に問い返すと、彼女はさっと目を逸らすと明後日の方向を見ながら無言を貫き始めた。
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