第46話 追跡してみた(テレサが)
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「今日は仕事はなしだ」
朝食を摂っていると、ガリオンは唐突に仕事を放棄する発言をしはじめた。
『駄目に決まっているでしょう、私たちの労働が街の平和を維持しているのですよ?』
深海祭りから戻ってきて以来、やる気を出すテレサは積極的に依頼を受けていた。
「すまんが、今日だけは勘弁してくれ。埋めあわせはするからさ」
『むぅ……、そこまで言うのなら構いませんけど……』
いつにないガリオンの態度に、テレサは眉根を寄せて難しい顔をするが折れることにした。
それと言うのも、ガリオンが謝るのは本当に珍しいので、彼が嫌がることはしないと心の奥でブレーキをかけたからだ。
決して「埋め合わせ」と言う言葉に惹かれたわけではないのだが、それはそれとしてどこに付き合ってもらおうか即座に幾つかの行動パターンを考えていたテレサは笑みを浮かべながら朝食をつついていた。
「今日は冒険者活動はしないんですね?」
ガリオンの皿を下げに来たのはこの宿の娘で朝は給仕、昼は選択に昼の掃除を行っている看板娘のミリィ。歳はテレサの一つ下で、接客業をしているのか物怖じすることなく良く笑う少女だ。
ガリオンもテレサも、ここを定宿にしているのでミリィとは顔なじみだ。
テレサはミリィに対して頷き返事をすると朝食へと戻る。
ここの食堂の料理は美味しいので、依頼がないのならゆっくり味わって食べたかったからだ。
テレサが食事をしている間にも、ミリィは皿を片付けテーブルを水で絞った布で拭く。彼女はそのまま立ち去るわけでもなくポツリと呟いた。
「それにしても、妙ですね?」
テレサは首を傾げるとミリィに視線を向けた。
「ガリオンさんが用事だなんて、珍しくないですか?」
これまでを振り返ってみる。
出会ってからは依頼をこなしたり、休日であっても装備の修理くらいでしか一人で外出しておらず、大抵は宿で寝て過ごしていたガリオンが唐突に休みを欲しいと言ってきたのだ。
「装備を修理に出すのは最近やってましたし、何より普段よりもパリッとした恰好をしていました」
よく見ているなとテレサは感心した目でミリィを見る。テレサが知る限り、ガリオンが今日の服装をするのは初めてなのでわざわざ新品の服を着ているということになる。
「もしかして……」
ミリィがアゴに手をあてなにやら考え込み始めたので、テレサは目に力を入れると続きに注目した。
「深海祭りで恋人でもできてデートに出掛けたんじゃ?」
次の瞬間、テレサが手に持っていたフォークとナイフが皿に落ち、硬質の音を鳴らした。
部屋に戻り大急ぎで着替えを終えたテレサは、繁華街へと来ていた。
まだ朝ということもあってか、ほとんどの店が開店しておらず、搬入作業や準備に追われている人たちが店先に立っている。
そんな中、テレサは大足で歩くとキョロキョロと周囲を見回しガリオンの姿を探していた。
(まさか、そんなタイミングはなかったはずですが……)
深海祭りの警備の間も目を光らせていたので、ガリオンが他の女性と良い雰囲気になっていなかったはずだ。
だが、最終日に気を抜いてお酒を呑んだ後に関しては空白の時間が存在している。もしかするとその時にことを起こした女性がいたのではないか……。
今は一刻も早くガリオンを見つけなければいけないと、強迫観念がテレサを動かしていた。
しばらく歩いていると、遠くの木工職人の店からガリオンが出てくるのを発見した。
両手に紙袋を一杯に持つと、どこかへと歩き出した。
急いで追いかけようとして、テレサは足を止める。
ああ見えて、ガリオンは超一流の剣士だ。生半可な距離ではこちらの動きを察知し発見されるおそれがある。
テレサはかなり距離を置きながら追跡を開始した。
しばらく後をつけるが、ガリオンが振り向く様子はない。
大量の荷物が視野を狭めているからか、それともこれから会う相手とのことを想像して注意力が散漫になっているのか……。
だんだんと街の外れへと進み、人通りが少なくなってきた。
古めかしい建物がまばらに点在している。
ガリオンはそんな建物の一つへと入って行く。広い敷地なのだが、柵はぼろく、庭先には家庭菜園が作られている。
ガリオンがノックするとドアが開き、中からは妙齢の女性が姿を現し、手荷物を半分受け取ると、ガリオンを中へと促した。
(まさか本当に女性とあっていたなんて)
ミリィの言葉を話半分に聞いていたのだが、こうして決定的な瞬間に遭遇するとはテレサも思っていなかった。
屋内に入るときの優しい笑顔にムカムカすると敷地内へと入る。中の様子を探れないかと考え、建物の外をぐるぐると回っていると……。
「侵入者だ! 捕まえろっ!」
振り向くと、アミが降ってきた。
(なっ!)
次の瞬間、テレサはアミに巻かれると地面へと転がるのだった。
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