第41話 戦ってみた(※触手によるサービスシーンがあります)

 ――ザッザッザ――


 砂浜を歩く。


 一部の場所では魔法による光が眩しいくらいに輝いており、俺たちはその周囲に立っていた。


 夜とはいえ気温が高く、現在は武器と防具を身に着けているのでこうしているだけでも汗が噴き出してくる。


 なぜ俺たちが夜間にこうして息を殺して砂浜にいるのかというと、仕事をするためだ。


 周囲には、俺と同じように武器を持つ冒険者がおり、緊張を滲ませている。


 魔法で作られた高台で見張りをしていた冒険者が叫ぶ。


「来たぞ! 西側から接近中!  大物だっ! 気を付けろっ!」


「テレサ、俺はそろそろ行く、手を放してくれないか?」


 先程から、俺と手を繋いでいたテレサは惜しむことなく離れると……。


『この戦いが終わったら、一杯やりましょう』


 そう書き残して下がっていった。ちなみに、戦いの前に約束を取り付けるのは縁起が悪いことなのだが、彼女は悪意を持っているのか、それとも人付き合いが希薄で知らないのかどちらなのだろうか?


 そんな疑問が浮かぶが相手も待ってはくれない。俺は気を引き締めた。


「さて、海上で戦うのは初めてだがやってみるかな……」


 次の瞬間、飛沫が上がると、巨大な何かが海上より浮き上がってきた。


 水棲巨大モンスターのテンタクルスだ。


 このモンスターは夜間になると行動を開始し、特に強い光に引寄せられる習性を持っている。


 今回、この祭りでは『テンタクルス焼き』を一般に広めるためのキャンペーンを行っており、半額で販売していた。


 地元で根付いたB級グルメを宣伝したいという思惑で気合を入れて推しまくっていたのだが、そのお蔭もあってか『テンタクルス焼き』は売れまくった。


 その結果、祭りがまだ半分残っているにも拘わらず、食材の在庫が切れそうになったのだ。


 チラシや通信網まで使って宣伝しているので、ここでテンタクルス焼きを提供できなくなってしまえば、遠方よりこれを食べるためだけに訪れた観光客の不満が爆発し、この港町は大きな損失を被ることになるだろう。


 そんなわけで、急遽編成されたのが、高ランク冒険者による討伐隊だ。



「テンタクルスは十本の触手を不規則に動かして獲物を捕食する! 女性陣は特に気を付けろよっ!」


 討伐指揮を執る冒険者が注意喚起する。


『『『『『うおおおおおおおおおおおおおおっ!』』』』』


 俺を含む剣を持つ男冒険者がテンタクルスを威圧するため、叫び声を上げながら突撃する。


『『『『ぎゃあああああああああああああああああ!』』』』


 次の瞬間、俺をのぞく男冒険者どもが触手に巻き付かれて動きを止めた。


『くっ、くそっ! 鎧の隙間から触手が入ってくる!』


『ぬるぬるしていて気持ち悪いっ!』


『や、やめろっ! そ、そこはっ!』


『何て吸引力なんだ、これだけ吸われても衰えないだとっ!』


 地獄のような光景だ。野郎が触手に絡みつかれ、何かに耐えるような表情をしているところなんぞ見たくもない。


「よしっ! 囮はこれで十分だっ! テンタクルスの動きが止まった! 今の内に攻撃しろっ!」


 リーダーの歯にきぬ着せぬ発言に俺は眉を顰める。


『『『『『やあああああああああああああああああああああああああっ!』』』』』


 続いて、女性冒険者たちが剣を抜きテンタクルスへと攻撃を仕掛けた。


 彼女たちは、戦っている俺の横に並び、剣を振って戦い、そして……。


『『『『『いやあああああああああああああああああ』』』』』


 全員、触手へと捕らわれた。


『やだっ! そんなところ触らないでっ!』


『よ、鎧を脱がせるんじゃないわよっ!』


『んっ……くぅ!』


『ぁん……だめっ!』


『気持ちよくなってきたかもぉ~』


 テンタクルスと戦っている間にもあちこちから女性冒険者の嬌声が聞こえてくる。


 これはもっと聞いていても構わない。頑張れテンタクルス君。


「しかし、こうなると惜しいな……」


 テンタクルスの触手攻撃を捌きながら、俺は砂浜に佇むテレサを見る。


 以前、ゲソギンチャクの触手に責められていた時も彼女は色っぽい姿を晒して見せた。是非今回も希少な表情を窺って、俺の記憶に刻みこみ、夏の大切な想い出の一つにしたいと考えていたのだが……。


 テレサは俺が何を考えているかわかったようで、軽蔑の視線を投げてくる。


 そして、杖を掲げると……。


「うおっ!」


 砂浜から冷気が立ち上っていたので咄嗟に飛び上がる。


 海が凍り付き、テンタクルス君の動きが鈍った。テレサが氷結の魔法を使ったのだ。


「これで動きやすくなった」


 先程まで、一進一退の攻防を繰り広げていたのは、敵が海上から動かなかったからだ。

 海中で戦うと、素早い動きをとることができず、致命傷を負わせるのにも無理がある。


 俺は戦いながら、徐々にやつを砂浜へと誘導していたので、それを見ていたテレサが援護したのだ。


「チャンスだっ! 今の内に倒すんだっ! ただし、火の魔法は使うなよっ!」


 リーダーの声が響く。


 ただの討伐ではなく、食材確保の目的があるので、火はまずい。


 俺が剣を高く掲げて見せると……。


「なにっ!」


 次の瞬間、俺の剣に冷気がまとわりついた。


「テレサ! ナイスだっ!」


 温度と範囲を絞り遠距離から俺の剣に冷気魔法を飛ばしてくる。彼女でなければできない芸当だ。そして……。


「この剣なら鮮度を落とさずに倒せるだろっ!」


 凍っている地面を蹴り飛び上がった俺は、


『『『『『『『『『なっ!』』』』』』』』』


 高速で剣を振るうと、テンタクルスを斬り刻んだ。

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