第40話 理由を聞いてみた

 男たちの相手を終え、宿舎に戻るとテレサが沈んだ表情を浮かべて待っていた。


『ありがとうございます。先程は大変助かりました』


 ナンパ男が余程怖かったのだろう、テレサは素直に頭を下げた。


「お前さんは、隙だらけなところがあるからな。あんな格好でいたらウルフの群れの真ん中に生肉を放り込むようなもんだ」


 テレサはもっと自分のことを客観的に見られるようになった方がいい。


 儚げで、守りたくなる雰囲気に加えて、誰もが羨むようなプロポーションを持っている。特に目を惹くのが胸で、水着姿を晒せば男が黙っているわけがない。


 むしろ、声を掛けなければ失礼なレベルになるので、ナンパ男どもの行動は正しかったとさえいえる。


 ああなることを懸念して、俺は別な依頼を受けようとしたのだが、彼女の強引な横やりのせいでこうして守らなければならなくなったのだ。


「それで、どうしてあんなことをした?」


 俺が断れば彼女が着ぐるみから出ることはないだろうと高をくくっていた。


 今までのテレサなら、他の人間に自分から話し掛けてまで表に出てこようとしなかったので、なぜ今回に限り、彼女が行動を起こしたのか、俺は気になった。


『ガリオンが、他の女性冒険者や、観光客と楽しそうにしているのが嫌だったのです』


 そう告げるテレサは、子どものように不貞腐れた態度を取った。


「悪かったよ。でもな、こっちも仕事なんだから、客から勧められたら断れないし、他の冒険者とも警備の配置について話さなければならないんだ」


 自分が着ぐるみの中で暑いのを我慢しているのに、俺だけ美味い物を食べて涼しい格好をしているのが気に入らなかったらしい。


『別に……ガリオンが謝るようなことでは……。今回の依頼、私が強引に受けてしまったわけですし、こうなるとわかっていたから、かたくなに拒絶したんですよね?』


 気まずそうな顔をした後は、表情をガラリと変え俺を見上げてくる。

 どうやらテレサにも俺の意図が伝わってしまったようだ。


「別に、お前さんのためだけってわけじゃない。俺は暑いのと人が多いのが苦手なんだ」


『ふふふ、そう言うことにしておいてあげますね』


 叱っていたのはこちらなのだが、なぜか主導権をテレサに握られてしまっている。


 ふと、俺は彼女に対し、肝心なことを言っていないことに気が付いた。


「そういえばなんだが……」


『何でしょうか?』


「お前さんの水着姿――」


『えっ?』


 何かを期待するような眼差しを俺に向けてくる。


 俺はテレサの水着姿を頭に思い浮かべると、あの時一番感じた言葉を口にした。


「凄くエロかったな!」


 次の瞬間、テレサは海に浮かぶクラゲを見るような目で俺に視線を送っていた。


「いや、違う。そう言う意味じゃないぞ! 見ていて触った時の胸の感触を思い出したし、胸だけじゃなくて太もももエロかったし、とにかく男どもが夢中になるのもわからなくなかった!」


『私、明日から絶対着ぐるみから出ませんので』


 フォローをいれるも、かえって警戒心を引き起こさせてしまったようだ。今では男すべてを汚物のように考えていそうな顔をしている。


 そんなテレサを見ていると、


『まったく、ガリオンはもっと女性を褒める語彙を磨いた方がいいですね』


 彼女はそう書き残すと部屋へと戻って行く。


 その足取りは、今日散々な目に合ったとは思えないほどに軽く、機嫌が良さそうに見えた。






 翌日になり、俺が仕事をしようとすると、


「ガリオン君は表に出すにはちょっと良くない噂があるようだから、今日からは着ぐるみを着てくれ」


「なん……だ……と……?」


 先日の『男もいける』と口にしたことが周囲に広まってしまったらしい。


 他の男冒険者も女冒険者も距離を取り、俺を避けていた。


 何者かが俺の腰にツンツンと触れる。


 唯一俺に近付くのは……。


『今日からは一緒に働けますね、頑張りましょう!』


 機嫌よさそうに笑みを浮かべたテレサだけだった。

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