第39話 誘いに乗ってみた
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二日目となり、テレサは警備の仕事のため浜辺を歩いていた。
昨日とは違って着ぐるみを着ておらず、『こちらが最後尾です』の看板を掲げながら歩き回っている。
周囲の人間は、一人の例外もなくテレサを見ると魂を抜かれたように立ち尽くしてしまう。
自分が周りから注目されていることに気付くテレサだが、看板が目立つからだろうと見当をつけると、持ち場へと着いた。
(ガリオンが代わってくれないのなら構わないです。自分で交渉しましたから)
先日。ガリオンに意地悪をされ「ずっと着ぐるみ姿でいろ」と言われたテレサは、宿舎に戻ると魔法を使える人間を探し交代してもらえないか強迫(こうしょう)した。
最初は断っていた魔法使いも、テレサの熱意に圧された形で頷くと、着ぐるみをきて担当場所へと向かった。
(ガリオンは一人だけずるいです。他の冒険者や観光客ともべったりして)
自分が炎天下の中、子どもに蹴られて耐えている間、ガリオンは若い女性から食糧を食べさせてもらい、他の冒険者とも和気あいあいと楽しそうに話をしていた。
その姿をみるたび、いらいらしてしまい。ガリオンを着ぐるみに閉じ込めてしまえば、このような想いをしなくてすむのに、と考えるようになった。
これまで、一緒に仕事をする上で、他の人間が絡んだことがなかったので、ガリオンが自分以外の冒険者とどう接するのか知らなかったテレサだが、思いの他社交的な面を見せられて、胸がチクリと痛むのを感じたのだ。
(私だってやればできるんです)
テレサは『こちらが最後尾です』という看板を掲げながら客の整理をする。
ガリオンができていたのだから自分にも可能だと考えたのだが……。
「わぁお。君可愛いね?」
(えっ?)
テレサが振り返ると、そこには三人の若い男が立っていた。
彼らは厭らしい視線をテレサに向けると、下心を隠そうともしない。
「毎年ここの祭りに顔出してるけど、君みたいなレベルの高い娘は初めてみるよ」
「ほんとほんと」
「水着も気合が入ってるしな」
着ぐるみを着ない冒険者は水着で案内をするということで、適当な水着を選んだテレサだったが、祭りを盛り上げるため、女性の魅力を引き出す水着が貸し出されていた。
ただでさえ、良いデザインをしている水着をテレサが着ればどうなるか?
その答えはこれまで浜辺を歩いていた時にすれ違った観光客の態度をみればあきらかだった。
突然、話し掛けられてテレサはどうしてよいかわからなくなった。
男たちは観光客なので無下にするわけにもいかず、かといって声が出せないので自分の意志を伝える手段もない。
「よかったら、俺たちと飲みに行こうぜ」
「仕事なんていいからさ。あっちで話そうぜ」
敵ならば魔法でぶっ飛ばせばいいが、ここでトラブルを起こすと祭りが台無しになってしまう。
次々とまくし立てられては自分の意見を聞くことなく話を進めていく。
テレサがどうしてよいかわからずに震えていると、
「はい。決まりっと! それじゃあ、俺たちが泊っている宿で呑みなおすってことで行こうか!」
決して逃がすまいと、男たちの手が伸びてきてテレサに触れそうになると……。
――ドドドドドドドドドドドドドドドッ――
砂煙が上がり、遠くから誰かが走ってきた。
「ちょ、ちょっと待った!!」
「なんだ、あんたは?」
「はぁはぁはぁはぁ……」
炎天下の中、足場の悪い砂浜を全力ダッシュしてきたガリオンは、即座に息を整えると立ち上がる。
「な、なんだよ……」
対峙してみると、全身が引き締まっているガリオンに比べ男たちの貧相さが目立つ。
自分たちが渦中におり、目立っていることに気付くと、急に居心地が悪くなった。それでも、テレサのことは諦めきれないのか、男たちはガリオンに食ってかかった。
「な、なんだよ? お、俺たちは客だぞ。まさか暴力振るうつもりじゃないよな?」
テレサとて普段の状況なら男たちを撃退して終わりだった。
だが、今は街の依頼を受けてこの場に立っているので、無碍にすることができなかったのだ。
立場が変わっても同じこと。今のガリオンではこの場を収めることはできない。テレサはそう考えていると……。
「はっ? 何を急に手なんて握って……」
「お前さんたち、実にいいやつだなぁ?」
「「「はっ?」」」
ガリオンが満面の笑みを浮かべる。
「ただで酒を振舞ってくれるってんだろ? あまりにも美味しい話だったからあっちから走ってきちまったぞ」
「なっ、別にあんたに言ったわけじゃあ……」
ガリオンの想定外の態度に男たちは混乱していると、
「安心しろって。俺は男もいける口だからな、楽しませてやるからよぉ」
「「ひっ!」」
残る二人が両手を自分の尻へと向ける。
「というわけで、テレサ。お前さんは着ぐるみに戻れ。俺はこいつらと呑みに行くから列の整理も頼んだぞ」
「ちょ……待てっ! 俺たちは……アーーーーッ!」
男たちの悲鳴を聞きながら、テレサは突然の事態にポカーンと口を開くのだった。
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