第33話 Aランクになってみた

「おめでとうございます。今日からガリオンさんはAランクになりました」


 冒険者ギルドを訪れると、受付嬢がそんなことを口走る。


「……いきなりだな。何を企んでいる?」


「いえいえ、企むだなんてとんでもない。ただ、他のAランク冒険者からも迅速に人員を補強して欲しいと言われていましたし、ガリオンさんたちは先日も立て続けに依頼をこなしたじゃありませんか。実績として十分だとギルドマスターを交えて協議しました」


「まあ、テレサと組めば三流冒険者でも実力が底上げされるからな」


 そのせいで勘違いしたルクスたちがのさばったせいで、今の冒険者ギルドは人手不足に陥っているのだ。


 そんなポンポンランクを上げては同じことになるのではないか?

 そんな風に考えていると、ちょいちょいと腹を突かれた。


 見てみるとテレサが顔を上げ、俺と視線を合わせてくる。

 何を主張しているのか読み解こうとすると『大丈夫です。ガリオンはルクスたちとちがいますから』と言っているように見えた。


「そうか? テレサも言うようになったな……」


「いえ、彼女は何も語っていないかと思うのですけど?」


 俺とテレサのやり取りに、受付嬢が口を挟む。確かにテレサの感情を読み解くにはコツがいる。俺くらいの長い付き合いでなければそうそうに読めるものでもないからな。


 俺が満足げに頷いていると、


『だって、ガリオンはルクスも及ばないくらいの度し難い変態ですし』


「そうだな、たしかにテレサは何も言っていない」


 そのゴミを見るような視線は明らかにそう告げていると直感するのだが、ここは読めなかったことにしてしまおう。


「とりあえず、Aランクになるのは認めるが、あまりこき使うのはやめてくれよな?」


「勿論です。一応他の冒険者の手前ですから、これからも自由に依頼を受けていただいて構いませんので」


 その笑顔の奥で何か企んでいそうに見えるのだが、女の本性は暴いてもろくなことにならない。


 最近テレサと接していて学んだので、俺は特に何も言わなかった。


「テレサ、何か受けたい依頼あるか?」


 確認をすると、首を横に振る。元Sランク冒険者で魔法のエキスパートにしてみればどの難易度の依頼でもこなすことは変わらないのだろう。何でもよいらしい。


「こちらにあるのは、他のAランク冒険者さんも嫌な顔をするものばかリですから、私としては全部受けていただけると大変たすかります」


 随分といい性格をしている。どうやら俺を相手にする場合、取り繕うのを止めたようだ。

 内容を見てみると、確かに危険そうだったり、依頼先が遠かったりと外れ依頼が多くある。


 俺は適当に依頼内容を流し読みしていくと…………。


「本当にろくなのがない。こうなったら適当に引かせてもらうことにするか」


 そう言って、一枚の依頼を抜き取ると、サインをして受付嬢へと渡した。


「はい、受注のサインありがとうございます。今回の依頼は――」


「さあ、テレサ。早速依頼に出掛けるぞ! 困っている人々が俺たちを待っている」


 不思議そうに首を傾げるテレサ。俺は彼女の背中を押すと、新たな仕事へと向かうのだった。

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