第20話 カプセに帰還する
「ふぅ、ようやく戻ってきたな」
実に一月ぶりに、俺とテレサはカプセの冒険者ギルドに戻ってきた。
途中、盗賊のアジトを襲撃して懐が潤ったので、美味い物を食べ、気ままに寄り道をしたせいか予定よりも半月ほど遅くなってしまったが良いだろう。
俺はCランク冒険者だし、テレサはパーティーを追放されている身分だ。
高難易度の依頼があればこの街にはSランクパーティーとAランクパーティーも複数存在している。
どうとでもなっていたはずだ。
「これ、依頼完了の証明な」
「はぁ……どうも?」
受付嬢に依頼人からサインをもらった書類を提出する。
その何とも言えぬ歯切れの悪さに、俺とテレサは顔を見合わせた。
周囲の冒険者たちも腫れ物に触れるかのように俺たちから距離をとっている。
「なあ、この空気なんだと思う?」
テレサに質問をしてみると、彼女はゆっくりと首を横に振った。
全員の視線が気になるので、俺が誰かに訊ねようと考えていると……。
――バンッ!!!――
「テレサが戻ってきたというのは本当かっ!」
ルクスたち、栄光の剣のメンバーが乱暴にドアを開けると冒険者ギルドに入ってきた。
「いたわっ! あそこよっ!」
斥候の女がこちらを指差した。
テレサはビクリと肩を震わせると杖をぎゅっと握る。
あの日、パーティーを追放された心の傷がまだ癒えないのだろう。
「テレサ、特別にパーティーに復帰することを許してやる!」
もの凄い形相で怒鳴りながら接近してくる。俺は面倒臭いと思いながらもテレサの前にたった。
「なんだ、お前っ!」
「ルクス、こいつよ! 例のCランク冒険者!」
斥候の女が俺を指差す。その言葉から察するに、俺が流した噂は良い感じに広がっていたようだ。
ルクスたちが苛立っているのは、自分たちの良くない噂が流れて後ろ指を指されていたからに違いない。
「お前かっ! 舐めた噂を流して俺たちをコケにしやがったのは!」
「噂って何ですかね?」
「俺たちが魔法使いを使い潰したり、いい様に利用しているって噂だよ!」
「それは噂ではなく真実では?」
実際、皆の前でテレサを追放しているわけだから明らかだろうに……。
「他にもあるわっ! ルクスが、変態的なプレイを強要するとかっ!」
「えっ! ルクスさん変態なんですかっ!!!!」
俺の大声がギルド中に響き渡る。
周囲の蔑んだような視線がルクスに集中していることから、余程面白い噂が流れていたようだ。
中には含み笑いを浮かべている者もいるので、冒険者ギルド内での栄光の剣の発言力は低下しているとみてよいだろう。
「そ、そう言えばっ! サイクロプスの討伐依頼だったはずでしょ! なんでこんなに戻るのが遅いのよっ!」
斥候の女が俺に噛みついてくる。話題を変えたかったのだろうか?
「戻る途中、湯治をして旅館で寛いだり、観光をしたりしていたもので」
「か、観光……だと? 俺たちをこんな目に合わせておいて」
愕然とした表情をすると、声を震わせる。
「とにかく、お前の相手は後回しだ! テレサ、さっさとパーティーに復帰しろ! お前が再加入すればパーティーランクは元に戻るんだ!」
どうやら予想以上に落ちていたようだ。
テレサの実力は一緒に依頼を受けた俺が一番よく知っている。
これまで彼らがSランクでいられたのは、彼女の魔法があったからに違いない。
おそらくだが、テレサを追い出した後、依頼を失敗しまくってペナルティを受けたのだろうな。
「こっちにこいっ!」
テレサは後ずさると首を横に振る。怯えているのか瞳が潤んでいた。
「あんたみたいな連携もとれない魔法使いをパーティーに戻してあげるって言ってるのよ!」
「これまで、パーティーにいさせてあげた恩を忘れたの?」
斥候の女と僧侶の女がテレサを非難した。
テレサは俯くと肩を震わせている。おそらく、今までずっとこういう扱いを受けてきたのだろう。
「あのー、ちょっといいっすか?」
「なんだっ!」
怒鳴れば怯えるとでも思っているのだろうか?
俺はテレサの肩を抱く。
すると、彼女は驚きの表情を浮かべ俺の顔を見上げた。
「こいつは俺のものなんで、変態には渡せないな!」
「なんだとっ!?」
俺はルクスに指を突きつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます