第14話 数日滞在してみた
★
「噂の発信源がわかったわよ、ルクス!」
栄光の剣の女性メンバーがドアを開け、ルクスの宿泊部屋へと入ってきた。
「でかしたっ! どこのどいつだ?」
射殺さんとばかりに睨みつけるルクス、その場には他のメンバー二人もおり、怒気を感じ、背筋から汗が流れた。
「犯人は、ガリオンとかいうCランク冒険者よ!」
「ガリオン? 聞いたことねえぞ!」
思い出そうと眉根を寄せて考えるが出てこない。無理もない、ルクスにとって男の名前など覚える価値が一切ない。一度名乗られているのだが完全に記憶の彼方へとおしやっているようだ。
「ほら、テレサを追放した時に噛みついてきた男がいたでしょう?」
それでもメンバーの女性は重ねてルクスに説明をする。
「ああ……いたな……」
ガリオンが放った一言のせいでその後大変なことになり、対応に追われてしまったのですっかり忘れていたのだ。
「ふざけたやつめ、引きずって俺の前に連れてこい!」
噂は日に日に広がっており、既に収拾がつかないレベルになっている。
そのせいで、ルクスはまともに表を歩くことができず、こうして宿に引き籠っているのだ。
「そ、それが…………」
メンバーの女性は表情を歪めると、言い辛そうに口籠る。
「言えっ!」
ルクスが怒鳴ると、彼女は観念したように口を開いた。
「現在、ガリオンとテレサはガクトの街の鉱山へと向かっているらしいです」
ガクトの街はカプセの街から徒歩で一週間程の場所にある。
王都ジームスとは真逆の方向になり、鉱山と温泉旅館があるくらいで、道中盗賊がでることもあってか、わざわざ向かう人間は少ない。
「どうしてそんなところに?」
ルクスの右に座っていた女性が質問をする。
「どうやら、鉱山にサイクロプスが出現したらしくて、その討伐にだそうです」
「こんな時に……討伐依頼を受けているだと?」
自分のことを嵌めておきながら、随分と良い身分だ。
もはや噂をなくすには、仕掛けた本人を衆目の下に晒し、罪を告白させるしかないのだが……。
「それが、ですね……。確認したところによると、討伐予定日を既に五日過ぎているにも拘わらず、戻ってきていない様子なんです」
「なん……だ……と……?」
「もしかして、それ。サイクロプスに殺されてたりして?」
ルクスの左に座っている女性がポツリと呟いた。
それこそが最悪の想定だ。
ルクスに罠を仕掛けておきながら、本人は関与することない場所で既に死亡している。
そうなっていた場合、噂はさらに尾びれをつけ、最悪ルクスがガリオンを嵌めたというふうに捻じ曲がる可能性もある。
「頼む、生きて戻ってきてくれ!」
復讐を果たすためには生きていてもらわなければならない。
ルクスは復讐対象のガリオンが生きて戻ることを神に祈るのだった。
★
「お、おはよう」
前日、良い感じで料理に舌鼓を打ち、酒を堪能した俺は、良い気分で目覚めると朝から温泉に浸かり、旅館を満喫していた。
老舗と言われているだけあってか、建物が古く趣がある。他に客がいないこともあってか、旅館の人間との会話を楽しみ、伝承やらこの周辺のことやら、様々な情報を教えてもらった。
『…………』
頭痛がするのか、テレサは頭を抑えながら俺の前にストンと座る。
浴衣が乱れて足やら胸が零れそうになっているのだが、絶妙なバランスを保っており覗けないようになっている。
いまいち幸運が足りないと考えた俺は、諦めるとテレサに紙包みを渡した。
『これは?』
「二日酔いの薬だ。お前さん、あの後も酒を呑んだんだろ? あまり強くなさそうなのにあれはやりすぎだ」
寝床に持ち込んだ酒瓶は一本あれば男数人の晩酌に十分な量がある。俺も結構呑んだつもりだが、それでも半分以上はテレサが呑んでいる。
『助かります』
テレサは素直に御礼を空中に書くと、紙を開き、粉薬を水で流し込んだ。
「さて、そろそろ出発するか」
テレサの酔いが収まるまで数日。温泉旅館を堪能した俺たちは、そろそろカプセに戻ることにした。
思わぬ醜態を演じたせいか、テレサはばつが悪そうに俺を見る。
俺にしても、弱っているテレサは中々に新鮮だったので、調子を崩している間は水を運んだり食事を運んだり世話をしていたのだ。
「とりあえず、戻るルートだけど、行きとは少し変えてこっちの街道を通ろうと思う」
旅館にある地図を借りているのだが、俺が指差したのはあまり使われていない旧街道だった。
『どうして、そんな遠回りをするのですか?』
普通に帰れば一週間程なのだが旧街道は両側に森が存在する歩き辛い地形をしているので十日かかる。
なぜ整備されていない方を進もうとするのか、テレサが首を傾げているので、俺は理由を説明してやる。
「旅館の人たちから聞いたんだが、どうやらこの辺に出るらしいんだよ」
『い、一体。何が……ですか?』
指先が震え、文字の乱れから動揺が伝わってくる。
俺はニヤリと笑い、目に金貨を映すと言った。
「盗賊たちがだよ」
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