第13話 温泉旅館に泊まってみた

「ふぅ、いい気持だ」


 熱いお湯が全身を包み込み、歩き回ったりサイクロプスと戦った時の疲労をじわじわと溶かしていく。


 満天の星空の下、俺とテレサは温泉に浸かっていた。


 あれから、サイクロプスの討伐を終えた俺たちは、依頼達成の報告をしに鉱山の現場監督の下を訪れた。


 二人揃って傷を負った様子がないことで若干疑われたが、サイクロプスの討伐部位を見せてやると納得し、奥にミスリル鉱山があることを告げると血相を変えて人を集めに行ってしまった。


 依頼達成のサインは先にもらってあるので、後はカプセの街へ戻り、報酬を受け取るだけとなったのだが、俺はテレサに一つ提案をした。


 向かう前に調べておいたのだが、どうやらこの辺りは温泉が有名らしかったので、無事に仕事を終えた暁には数日のんびりしたいと考えていたのだ。


 最初は難色を示し俺を警戒していたテレサも「ここの旅館の料理も酒も美味いらしい。温泉は美肌効果があって万病にも効くってさ」


 と、


 女性なら誰しも憧れる言葉を織り交ぜると、肩を震わせ悔しそうにしながらも首を縦に振った。



 ――チャプチャプ――


 木でできた仕切りの先に女湯があり、そこから温泉を掻き分ける音が聞こえる。


 サイクロプスが出現したせいで客がおらず、宿泊しているのは俺とテレサだけらしいので、温泉に浸かっているのは間違いなく彼女だろう。


 テレサは宿泊する条件として『絶対に覗かないでください』と俺に釘を刺してきた。


 俺に嫌がる女性の裸を無理やり見るような趣味はない。


 決して覗かないと約束すると、これまで見てきた彼女の身体を思い出し、温泉に浸かっている姿を想像する。


 岩に背を預け目を瞑り、気持ちよさそうに顔を上げている。そのお湯の中に浮かぶのは二つの良く育った胸。


 男なら一度は揉みしだいてみたいと考えるのではないだろうか?


「まあ、約束してるから覗かないけどな」


 俺はニヤリと笑うと温泉を出る。お楽しみはこの後にあるのだ。




「よっ、堪能したみたいだな」


 先に温泉から上がり部屋で待っていた俺はテレサに声を掛ける。


 彼女は浴衣を着ているのだが、結ぶ紐が緩いのか胸元がはだけ、綺麗な脚がのぞいていた。


 湯上りということもあって顔が火照っていて、髪を結いあげておりうなじが見える。


 俺が無遠慮に見ていると、テレサは柱の陰に隠れてしまった。


『見ないでください』


 指を光らせ、空中に魔力で文字を書く。


「温泉は覗かなかっただろ?」


 元々これがあるから覗く必要はなかった。下手に全部脱いでいるよりはある程度隠されている方が想像力が働くのだ。


「とりあえず、もうすぐ飯の配膳をしに来るから座っておけよ」


 俺はテレサに目の前の席を勧めるのだった。




 黙々と目の前に広げられた料理を食べていく。


 小鉢の数が多く、川魚の塩焼きや、近場で狩ったイノシシ、山菜などなど。多様な料理がずらりと並べられている。


 ここは料理が美味く酒も美味いと評判の老舗旅館なので、豪華な料理に俺もテレサも舌鼓を打っていた。


 ある程度料理を食べ酒がすすむと、満腹になったのか、テレサがコンタクトをとってきた。


『先程のサイクロプス戦について、聞いてもいいですか?』


 空中に文字が書かれる。


「ん、何でも聞いてくれていいぞ」


 俺は酒を注ぐと上機嫌で答えた。


「最後の攻撃で、ガリオンの力が一気に増したように見えました。あの時飲んだのは何だったのですか?」


「あれはマナポーションだよ。お前にも飲ませただろ?」


 テレサに酒を勧めると、彼女は無言で杯を差し出したので注いでやる。


 酒を呑んで『ほぅ』と息を漏らすと瞼が半分程下がり、色っぽい姿になった。


『ガリオンは魔法使いではないはずでしょう?』


 空中に書く文字が乱れている。思考が定まらないのか質問の内容がだんだんストレートになってきた。


 俺はテレサに答えた。


「俺は特殊体質でな。魔力を吸収することで肉体を強化することができるんだ」


 ふたたび酒を注ぐと、彼女は俺の声に耳を傾けながらも呑み干す。


「さっきの戦闘ではミスリル鉱石があったせいで場の魔力濃度が低かったろ?」


 テレサはフラフラしながらも頷いてみせた。


「基本的に俺も魔法使いと同じだ。魔力がない場所や魔力を吸われる場所だと力を強化できない」


 それを補うのがマナポーションだ。通常は魔法使いが失った魔力を回復させるのに使うのだが、俺が飲めばその分身体能力を強化することができる。


『他に、強化する方法はないのですか?』


 興味を持ったのか、次々に質問をしてくるのだが、顔が赤くなりふらふらが激しくなってきている。


 いつの間にかテレサは酒が入った瓶を自分のところに引き寄せ、呑み続けていた。


「それはもちろんあるぞ」


『どんな方法?』


 文字を書くのも面倒なのか短い言葉で聞かれる。


「魔力が多い人間と接触することで吸収することができるんだ」


『具体的には?』


「そりゃもちろん性交い……」


 方法を告げようとしたところ、睨まれてしまった。


「普通に触れた状態でも少しは吸えるけど、それより効率が良いのが粘膜接触だな」


『粘膜接触?』


「ああ、口付とかだな」


 接している部分が多い程、魔力を吸うことができる。


 もしテレサの魔力を上乗せしたとしたら、これまで生きてきた中で最大の力を振るうこともできると確信している。


『口付け……?』


 天然なのか、テレサは艶やかな唇を右手でなぞる。そう言う仕草は男と二人きりの時にしない方が良いと思うぞ。


『なるほど、色々参考になりました。私は寝るので決して部屋に入ってこないでください』


 俺がテレサの唇を狙っていると勘違いしたのか、彼女は酒瓶を持って部屋へと引き上げて行くのだった。

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