第12話 噂を流してみた
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「俺たちとパーティーが組めないとはどういう了見だ?」
ルクスは若い魔法使いの女の子を追い詰めると、壁に手を置き凄んで見せた。
「えっと……わ、私はSランクパーティーの後衛をするには荷が重いというか……」
しどろもどろになりながら、どうにかルクスの視線を避けられないか、魔法使いの少女は目元に涙を浮かべ混乱していた。
「いいかぁ? 俺たち『栄光の剣』はこの街の冒険者ギルド唯一のSランクパーティーだ。本来ならお前が頭を下げて入りたいと頼むのを許可してやるところなんだぞ」
「えっと……はい、その通りです」
魔法使いの少女も周囲の冒険者も黙り込む。なんだかんだで冒険者の中で一番影響力があるルクスパーティーに逆らうと、後々面倒なことになると知っているからだ。
「よーし、物分かりが良いやつは嫌いじゃねえよ。しばらくパーティー組んでみて、駄目そうなら解放してやるから頼むぜ」
とても頼むような態度ではないのだが、ルクスは少女の肩に手を置くと笑みを見せた。
「おい、嫌がってるじゃないか。その辺で勘弁してやってくれよ」
「なんだぁ?」
ところが、そんなルクスに意見する人間がいた。
「冒険者同士がパーティーを組む場合は双方の合意が必要だ。いくら魔法使いが必要だからと言って、脅して組んだところで連携なんてできるわけがないだろ?」
彼はこの街に複数あるAランク冒険者パーティーのリーダーだ。
「はっ! 知ったような口を利きやがって、仕方ねえだろうが。募集がこないんだからよ」
悪びれる様子もなく威圧して見せるルクス。
「それは自業自得だろう?」
だが、Aランクパーティーのリーダーは言い返した。
「どういうことだ?」
「最近、お前らのパーティーに良くない噂が流れているからな」
「噂……だと?」
聞き返すルクスに男は頷く。
「Sランクパーティー『栄光の剣』は魔法使いを使い潰す気満々の上、嫌がらせまでするという噂だ」
「何だ、そのでたらめは!」
声を大きくし、怒鳴りるルクス。それだけでこの場の皆は委縮し意見を言えなくなるのだが、唯一の例外はリーダーの男。
Sランクパーティーよりは格下になるのだが、一つの情報を握っていたので強気に出られた。
「最近は依頼が失敗続きらしいじゃないか。このままだと降格されると冒険者ギルドから通達されていると聞いている」
「なっ! てめぇ、その話をどこからっ⁉」
「どこから聞いたかは教えられない、だが本当のようだな?」
しまったとばかりにルクスは口を抑える。
もしルクスたちのパーティーが降格するようなことがあれば同格になる。
Aランクパーティーのリーダーは、そのことを踏まえたうえで話に割り込んだのだ。
「皆も聞いているよな、ルクスの噂については?」
周囲を巻き込もうとリーダーの男は確認する。
ルクスが周りを睨みつけると、誰もが視線を外す。これまでは恐怖によるものかと思っていたルクスだったが、その怯え方に違和感を覚える。
「おい、お前。俺に関する噂とは何だ?」
そう言って魔法使いの少女に手を伸ばした瞬間、
「ひっ、ご、ごめんなさい。許してください! ま、魔法使いプレイは嫌ですっ! へ、変態っ!」
「なっ⁉」
壁際でうずくまって震えながら泣き出す魔法使いの少女。
周囲の冒険者も、
「やっぱりあの噂は本当だったんだな」
「なんでもとんでもない変態プレイを要求するらしいぞ」
「中には男でもいけるなんて噂もある」
「Sランクともなると性癖がぶっとんでるよな」
周囲から聞こえてくる声にルクスは混乱する。中には身に覚えのないものが含まれていたからだ。
「だ、誰だっ! 妙な噂を流して、俺を嵌めようとしやがって!」
怒鳴りつけるが、誰一人口を割る者はいない。
「くそっ! ふざけやがって!」
椅子を蹴り倒し、冒険者ギルドから出ていくルクス。
「噂を流したやつを探し出して制裁を加えてやる。この街で俺に逆らって生きていけると思うなよ」
瞳に憎悪を浮かべると、手掛かりを探しにいくのだった。
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