第11話 サイクロプスと戦ってみた
『グオオオオオオオオオオッ!』
耳を塞ぎたくなるような絶叫と同時に、サイクロプスが棍棒を振るう。
まともに受け止めるという選択肢はなく、俺は大きく飛びのいてその攻撃を避けた。
地面が揺れ、土が飛び散る。その際にキラキラとした金属片が見えた。
「なるほど、ミスリルの鉱山か……。これは討伐後には盛り上がりそうだな」
鉱山責任者の話だと、この鉱山から採れるのは鉄鉱石だと聞いていた。
おそらく途中から採れる鉱物の種類が変わったのだろう。
背後を振り返ると、テレサも気付いたのか慌てており、身体を動かし必死に俺に伝えようとしている。
ミスリルは加工をする前の状態では近くの魔力を引き寄せ、ため込んでしまう習性がある。
魔法で攻撃するテレサにとってこの場所とは相性が悪い。
遠くから魔法で攻撃をしたところで、途中にあるミスリル鉱石に魔力を奪われ、威力が激減してしまうからだ。
とはいえ、俺がそのことに気付いていないと思っているのか、小さな体を大きく動かし魔法を放つ動きをした後は腕を交差してバッテンを作る様子は、こんな時だというのに和んでしまい、俺はついつい笑顔で手を振り返してしまった。
地面を踏みながら『違うんです!』とでも言いたそうにしている。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
そうしている間にも、サイクロプスは攻撃を仕掛けてくるのだが、こうして足元にいる限り棍棒の攻撃を受けることもない。
この手のモンスターは攻撃を避けられる敏捷度があれば余裕をもって対峙できるのだ。
「……とはいえ、ここがミスリル鉱山ってのは予想外だったんだよな」
一人で倒すつもりだったし、最悪テレサの力を借りるつもりだったが、今はどちらも万全な状態で戦うことはできないだろう。
「はあっ!」
力を込めて剣を振るい、サイクロプスの足を斬りつける。
『グオオオオオオオオオオッ!』
「駄目かっ!」
それなりに深い傷をつけることはできるのだが、傷口から湯気が立ち昇りあっという間に塞がってしまう。
怒り狂ったサイクロプスが足を上げ、俺を踏み潰そうとしてきた。
—―ヒュンッ! ドスドスドス!—―
後ろから魔法で作られた氷の柱が飛んできてサイクロプスの胸へと突き刺さる。
サイクロプスはその勢いで仰け反り、その間に俺は距離を取った。
「あの距離からこの威力を保って魔法を撃ちだしたのか……」
後ろを振り向くと、テレサが息を切らしている。流石に今の魔法程の威力を出すにはかなりの魔力を持っていかれたらしい。
「テレサ、ありがとう。でもあまり無茶をするなよ?」
俺が礼を言うと、テレサはサイクロプスを指差し『前を見てください! 前!』とばかりに口をパクパクさせている。
向き直ると、既に柱は地面へと落ち、サイクロプスの胸は湯気が上がって塞がっていた。
「本当にいやな回復力だな。この場所で良かったな? ついてるぞ、お前」
外で出会っていたなら、テレサの魔法一発で吹き飛ばすこともできた。
こうして苦戦をしているのは、ここがミスリル鉱山という、やつに地の利があっただけに過ぎない。
「とはいえ、こうも回復されると面倒なことに変わりないか……」
連続攻撃で回復不能になるまで斬り刻む手もあるが、それだと時間が掛かってしまう。
テレサも疲れているようだし、さっさと片付けて酒場で酒の一杯でもひっかけたい気分だ。
弱点の一つ目を潰せばどうにかできるんだが、流石に何もなしに十数メートル飛び上がるのは不可能だ。
足を斬って倒してから目を攻撃しようと思ったのだが、”今の時点”では威力が足りない。
一度、弱点を狙うそぶりを見せてしまえば決して隙をみせないだろうし、俺はどうするか悩んだ。
「そっか……」
地面にはテレサが放った魔法でできた氷の柱が転がっている。
『グオオオオオオオオオオオオオオオ!』
「うるせえよっ!」
襲い掛かるサイクロプスの棍棒を掻い潜ると右腕を斬りつけて棍棒を落とさせた。
俺は一気に距離をとると、テレサの下へ走り寄った。
「今のと同じ氷の柱、三本出せるか?」
戻るなり彼女に早口で質問をする。
テレサは一瞬考えると素早く頷き、できると目で訴えかけてきた。
「その前に、これ飲んでおけ」
俺はポーチから取り出した二本の瓶の内、一本を彼女に渡す。
魔力を回復させることができるマナポーションなのだが、作るのに時間と人員が必要となるので高額なため、緊急時でしか使わない。
テレサが受け取り魔力を回復させる。
俺も同様に飲むと準備が整った。
「今から俺が技を放つから、その一秒後に頼む」
俺はそう答えると前に進み、サイクロプスとテレサの中間くらいの位置まできて足を止める。
そして、剣に力を伝えると……。
「【クレセントスラッシュ】」
三日月の形をした斬撃を飛ばし、サイクロプスの両足をこれまでよりも深く傷つけた。
「いまだっ!」
後ろを振り返るまでもない。俺がサイクロプスに向かい走っていると、近くを冷たいものが掠めていった。
視界に映ったのはテレサが放った氷の柱だ。
氷の柱は、俺の攻撃を受け、前のめりになっているサイクロプスの胸に突き刺さると身体をのけぞらせた。
「よしっ!」
目論見通りに進んだので、俺は飛び上がると氷の柱を足場にして奴の頭上を飛び越えた。
「これで、終わりだっ!」
剣にありったけの力を込め、振り下ろす。
「【グランドブレード】」
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
サイクロプスの目が大きく見開き、手を俺に伸ばしてくる。
次の瞬間、俺の身体はその手をすり抜けやつの目に接近し、
—―ィィィィーーーーン――
サイクロプスの目から胴体までを真っ二つにした。
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