第10話 鉱山に入ってみた
「この先に、サイクロプスがおりますので……」
この鉱山の現場監督を名乗る男は、怯えを顔に出すと走り去っていった。
俺たちは現在、洞窟の入り口に立っている。今回依頼を受けたサイクロプスの討伐だが、話を聞いてみると、鉱山を掘り進めて行く途中でどこかの空洞へと繋がっていたらしく、中には巨大なモンスターが壁に立ち、眠っていたと言う。
そのモンスターの姿を目撃した鉱山夫の証言を聞いた専門家が、モンスターの正体を『サイクロプス』と断定したため、冒険者ギルドに依頼が入った。
サイクロプスが出現していらい、この鉱山は閉鎖されているらしく、辺りにはツルハシやスコップ、それと手押し車が倒れていた。
「そんで、今回はどうする?」
依頼を決めたのがテレサなので、俺は彼女の言う通りにするつもりだ。
『爆発系の魔法は使いません』
鉱山内での戦闘ということを考えると、爆発や炎上は避けたいところだ。
崩落を防ぐため木の板で壁が補強されているのだが、火の魔法を使えば燃えてしまったり、爆発の衝撃で天井が崩れてくる可能性がある。
そう考えると、テレサの言葉の意味も理解できる。
「そうなると、俺がメインで倒すってことだな?」
サイクロプスに流れる血液はマグマのような高温と言われていて、表面を冷やす程度の魔法ではそれ程ダメージを与えられない。
その上、巨体に見合った怪力を持ち、繰り出される攻撃をまともに食らえば並の人間では防具ごと身体が砕け散るとか。
『自信がないのですか? それならば私が対処しますけど』
彼女は空中に文字を書くと挑発的な視線を送ってくる。これまで散々からかってきたが、依頼となると真剣な表情を見せ隙がない。
ルクスたちはこのようなテレサを知っていたのだろうか?
「いや、良い判断だと思っただけだ。サイクロプス程度なら問題ねえよ」
そう言うと、一瞬、テレサが笑った気がする。彼女はこれ以上は打ち合わせは必要ないとばかりに前に出ると、鉱山の入り口へと足を踏み入れるのだった。
『…………』
後ろから、テレサが息切れしている音が聞こえてくる。
俺たちが鉱山に入ってから既に数時間が経過している。
途中までは木の板が地面に敷かれおり歩きやすかったのだが、現在は足場が悪くなっているので、踏む場所を見極めなければ転んでしまう。
テレサは身体をそれ程鍛えていないので体力がない。こうした場所を長時間移動するだけで体力切れしてしまうのだ。
後ろで彼女がぐらつく気配を感じる。
「おっと、大丈夫か?」
倒れかかったところを抱き止める。彼女が顔を上げると額に汗が浮かんではいるが、瞳には強い意志が感じられた。
テレサは俺の胸を両手で押し、立ち上がると首を縦に振った。
意外と負けず嫌いな面もあるようで、俺は口の端をつりあげ笑うと、さらに奥へと進んでいった。
「ここが、目的地か」
あれから、少し進むとようやく空洞へと辿り着いた。
俺と彼女は中に入り、空洞内を見渡す。大きさとしては、小さな闘技場程度だろうか?
奥の方を見ると、情報通りサイクロプスが目を閉じ眠っている。
口が開いており呼吸をしているのが見える。
俺はテレサに目で合図を送ると、剣を抜き慎重にやつに近付いていった。
『…………グガ?』
サイクロプスにかなり近付き、見上げるようになると、やつの一つ目が突如開く。
侵入者の気配を感じ取ったらしい。
なんら感情の一つも見えない瞳が俺を見据える。
「ちっ、そのまま寝ててくれたら楽だったんだけどな」
俺がぼやくとサイクロプスは壁から背を離し、地面に転がっている棍棒を拾い上げた。
サイクロプスの肌が赤く変化し、瞳に炎が宿る。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
奴の叫び声を合図に戦闘が始まった。
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