第9話 依頼を選ばせてみた
★
「ククク、あいつの噂だが、だんだんと広がってきているみたいだな」
泊っている宿の部屋でルクスはベッドに腰掛け笑みを浮かべていた。
「他の連中もあの娘が落ちていくのを面白がっているんでしょうね、最初に流した噂からかけ離れた話が伝わってきていますよ」
「ほう、どんな噂だ?」
「依頼料を誤魔化して自分の取り分を多くしたり、男と見れば誰にでもすり寄る淫売とか」
パーティーメンバーの女は口元に手を当てると、現在流れている噂をルクスへと聞かせた。
「そいつは酷い、元パーティーメンバーとして心が痛むぜ」
「酷い人、最初に噂を流さなければそうはならなかったのに」
その場にいたもう一人の女が、そう言いつつ楽しそうな表情を浮かべる。
「それより、新しい魔法使いはまだ見つからないのか?」
「一応、応募してるんだけどね。Sランクということで気後れしているのではないかと?」
ルクスたちは、テレサを追い出した時点で、新しい魔法使いの募集を冒険者ギルドの掲示板でしている。
本来ならSランクパーティーに入れると喜び、希望者が殺到する予定だったがなぜか一向に人が集まらない。
「ちっ、仕方ない。今日も依頼のランクを下げるか……」
自分が言い寄った時に、素直に頷かなかったテレサにルクスは苛立ちを覚える。お蔭で戦力が減ってしまい、依頼のレベルを落とすはめになったからだ。
「別にいいじゃないですか、多少依頼をさぼったところで私たちは十分な蓄えがあるんですから。それに比べてあの娘は今頃日銭を稼ぐのも苦労しているんじゃないですかね?」
口元に手を当ててクスクスと笑って見せる。
「ははは、違いねえ。いざとなったら臨時の魔法使いを入れてしまえばいいさ」
機嫌をなおしたルクスはそう言うと、笑みを浮かべるのだった。
★
「~というわけでさ、流石の俺もドン引きしたってわけよ」
「……まじかよ、それはやばすぎだろ?」
冒険者ギルドで俺が楽しく雑談をしていると、テレサが姿を現した。
「っと、それじゃあ例の件よろしくな」
俺は男冒険者の右手を握った後、彼女に合流する。
「よく来たな。さあ、依頼を受けようぜ」
周囲からの視線を感じる。その内の半分以上がテレサに向けられていた。
距離を取り、半眼で俺を見ていたテレサだったが、コクリと頷くと依頼掲示板へと移動する。
「どれにする? この前は俺が選んじまったから、今日はテレサの好きな依頼で構わないぜ」
彼女は杖で依頼書を差しながら端から順番に依頼内容を読んでいく。そして、とある依頼を見ると、ピタリと動きを止めた。
「この依頼を受けたいのか?」
テレサは顔を横に向け俺の目を見ると、ゆっくりと首を縦に振る。
「なあ、もしかしてこの前のことまだ怒ってるか?」
俺の質問に、彼女はこれまでで最高の笑顔を俺に見せてきた。ここにきて彼女の心の声が聞こえてくるようだ『それ、答えるまでもありませんよね?』と。
「はぁ、まあいいさ。色々散財しちまったし、ここらで一発ドカンと稼いでおくのもありだからな……」
俺は依頼書を剥がすと……。
「それじゃあ、早速このAランク相当の依頼『鉱山に現れたサイクロプス討伐』を受けるとするか」
俺の言葉に、周囲の冒険者たちがありえない者を見るような目で俺たちを見ていた。
「ほ、本当にその依頼を受けるのですか?」
受付嬢に依頼書を手渡すと念押しされる。
「元Sランクのテレサさんはともかく、最近Cランクに上がったばかりのガリオンさんには荷が重いのではないかと思うのですが……?」
隣でテレサがじっと俺を見ている。
「いいですか、ガリオンさん。基本的にギルド側はあなた方が受ける依頼に口出しはしません。自身の能力と依頼の難易度を見極めることも冒険者に必要な能力だからです。ですが、それでもあえて言わせてください。本当に、この依頼を受けるんですか?」
真剣な顔で俺を見る。心配してくれているのだろう。
「勿論だ。自分の能力。そして、仲間の能力をはっきり見極めるのは当然だからな」
俺はそう言うとテレサを見た。
彼女は挑戦的な目を俺に向けている。今回の依頼は俺に勝負を持ち掛けているのだと理解する。
「はぁ、これだから若い人は……。いいですか、依頼を失敗したらペナルティが発生しますけど、命あってのものなんです。最悪の場合は絶対に逃げてくださいよ」
自己責任とか言いつつも口を酸っぱくしながら俺を窘めようとする。実はよい人なのだろうな。
「わかってる。いざとなったらテレサだけは無事に帰すから安心してくれ」
俺たちは準備をし、依頼があった鉱山へと向かうのだった。
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