第8話 付き合っていると言ってみた

「よっ! おはよう」


 俺の姿を見るなり、テレサは溜息を吐くと、あからさまに嫌そうな表情を浮かべた。


 先日の依頼を終え、カプセの街へと戻った俺たちは、冒険者ギルドに報告を終えると報酬を分け合いその場で解散した。


 それから二日が経ったので、休養を終えた俺はふたたびテレサを誘うため、こうして食堂で待っていたのだ。


 俺のテーブルの上に朝食とコーヒーが置かれているのを見たテレサは、近付いてくると正面へと座る。


 そして、給仕に注文をするとじと目を向けてきた。


「そう言えば、今日はパジャマじゃないんだな?」


『…………』


 俺の指摘に彼女はプイと顔を逸らす。


「この前お客さんに見られてからというもの、ちゃんと着替えて出てくるようになったんですよ」


 俺の疑問に答えたのは給仕だった。


 彼女はテレサが注文したモーニングをテーブルに置くと、事情を話してくれる。


「なるほど、そう言うことか……」


 テレサがプルプルと肩を震わせている。給仕から自分の生活行動をバラされて恥ずかしいのだろう。


 平静を装ったテレサは、黙々と朝食を摂り始めた。


「それより、私も一つ聞きたかったんですけど?」


 食事を運んでさあ終わりではなく、給仕はその場にとどまると俺の顔を覗き込んで来た。


「なんでも聞いてくれ」


「テレサさんと……えーと?」


「俺はガリオンだ」


「テレサさんとガリオンさんはどういった関係なんですか?」


 好奇心を目に宿した給仕が返答を待つ。


 テレサは我関せずという感じでコーヒーを口に含んでいた。いちいちこちらを気にするのを止めたようだ。


「俺とテレサの関係? もちろん決まっている恋人だ!」


『プッ!!!!』


 俺が腕を組み、神妙に答えるとテレサの方から愉快な音が漏れ、彼女はハンカチで口元を押さえていた。


「やっぱり、そうだったんですね! テレサさん! どうして教えてくれなかったんですか!」


 激しく首を横に振って否定するテレサ。給仕は「またまた~。照れちゃって~」と聞く耳を持たず苦労しているようだ。


 俺はそんな彼女を見ながらコーヒーを口にしているのだが……。


「おっと、危ない」


 飛んできたコップを受け止める。投げたのはテレサで、彼女は呼吸を荒げながら今にも飛び掛からんばかりの目で俺を睨みつけていた。


「すまないが冗談だ」


 このままだと次は魔法をぶっ放してきそうだったので悪ふざけを訂正しておく。


「テレサは反応が面白くてな。ついからかってしまうんだよ」


「バンッ」とテーブルを叩く音がしてテレサが立ち上がる。肩を怒らせながらそのまま食堂を出て行ってしまう。


 どうやら完全に怒らせてしまったらしい。


 給仕はテーブルに飛び散ったコーヒーと皿を片付けるのだが……。


「わざと怒らせましたよね?」


 給仕は探るように俺を見てきた。俺は給仕がなぜそんな顔をしているのか気になっていると……。


「テレサさん、ここ数日元気がなかったんですよ。例の件で、悪い噂が広まっているらしくて……」


 その噂ならこの数日嫌という程耳にした。

 ルクスたちが故意に広めているせいで、彼女はますます塞ぎこんでいたのだろう。


「テレサさんのこと、よろしくお願いしますね」


「付き合っていないと言ったはずだが?」


 まるで保護者のように真剣に頭を下げる給仕。


「でも大切に思っているじゃないですか? テレサさんをからかっている時のガリオンさんの目がとても優しかったです」


「だから元気づけようとしたんですよね?」そう言って目を覗き込んでくる給仕に、


「コーヒーをもう一杯頼む」


「はいはい」と給仕が呆れながらも去っていくのを見送ると。


「何とかしてやらないとな……」


 俺はルクスへの対策を考えるのだった。

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