第5話 肉を食ってみた

「いやぁ、本当に助かりました。まさかあれ程いたワイルドウルフ、さらにそのボスまであっという間に倒してしまわれるとは思いませんでしたぞ」


 笑顔を俺に向けると、そう言って握手を求めてくる牧場主。


「それは良いけど、ワイルドウルフの肉を食いたいから捌いたら回してもらえないか?」


「ええ、勿論でございますとも」


 後ろを振り返れば、牧場で働いている人間がワイルドウルフの死体を回収している。


 倒すまでが俺たちの仕事で、解体から販売までが彼らの仕事になる。


 その分の報酬は依頼料に上乗せされ、後日受け取ることが出来るのだが、せっかく狩りたてのワイルドウルフの肉があるのだから、新鮮なうちに味わってみたいと思ったのだ。


「それではこちらへどうぞ。休んでいただいている間に用意をさせていただきますので」


 牧場主がそう言うと、俺たちは小屋へと案内されるのだった。






 目の前のテーブルにはぐつぐつと音を立てている鍋がある。


 その中には様々な野菜が入っている。


 牧場主曰く、すぐそこの森の手前で収穫できる植物らしく、シャキシャキした歯ごたえの野菜から、仄かな苦みを感じる野菜まであり、これだけでも十分美味しかった。


 皿にはワイルドウルフの肉が薄切りにされて並べられている。


 俺とテレサはその肉をトングで掴むと鍋の中で泳がせてから引き上げ、タレをつけて食べていた。


「うん、この食べ方は知らなかったが美味いもんだな」


 元々脂が少ないワイルドウルフではあるが、鍋で余分な脂を落とすことですっきりとした味で食べることができる。


 薄切りのお蔭か噛みしめると柔らかく、肉の旨味が口の中一杯に広がる。


「この料理は新鮮なワイルドウルフの肉でないとできないんですよ。ワイルドウルフの肉は死んでからすぐに臭みが出始めるので、こうして湯にくぐらせて食べるのは狩ったその場でしか味わえない料理ですな」


 牧場主が次から次へと肉を運んでくる。


 他の場所では先程までワイルドウルフの死体を回収していた従業員たちも、同様に鍋をつついては美味しそうに肉を食べていた。


 俺も負けられないとばかりに肉を食べ続けるのだが、しばらくすると見られていることに気付く。


 顔を上げてみると、テレサがトングを掴んだまま肉を鍋に入れ、じっとこちらを観察していた。


「テレサ、その肉、もう十分熱が通っていると思うぞ」


 慌てて引き上げて食べ始める。一体、何のために観察していたのだろうか?


 これまで、俺はテレサに妙なちょっかいを掛けていたので、警戒心を抱かれていたのは間違いない。


 この数日の旅で、必要な時以外、彼女が俺に視線をむけてくることはなかった。


 一体、どういう風の吹き回しなのか?


(そう言えば、連携が取れないって言ってたけど、かなり的確な動きだったよな)


 魔法の威力が高いのは当然だが、今回はそこまで高威力の魔法を使った様子はなかった。


 ワイルドウルフを狙う際、前衛の俺が複数を同時に相手にする事態を避けさせるかのように魔法で牽制をしていたくらいだ。


 今度は俺が手を止めて見ていると、テレサがそれに気付いて顔を上げた。


 彼女はそのまま身を乗り出すと、お湯を潜らせた肉と野菜を俺の器へと入れてきた。


「ああ、ありがとう」


 やはり返事がなく、彼女は透き通った瞳で一瞬俺を見たかと思うと視線を戻し、ひたすら肉を食い続けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る