第4話 依頼をこなしてみた
「いい加減、機嫌を直さないか?」
俺とテレサは街の外を歩いている。それと言うのも、冒険者ギルドで受けた依頼が街の外で行うものだったからだ。
彼女は背丈ほどの宝玉が嵌めこまれた杖とローブを身に着けている。
先程から、俺から距離をとろうと大股で歩いているのだが、後衛職が前に出るのはあまり好ましくない。
もっとも、街からそう離れていないここいらには強いモンスターがいないのでそれ程問題はないだろう。
テレサはチラリと振り向くとジトっとした目で俺を見る。どうやら食堂の件を根に持っているようなのだが、それでもこうして依頼に付き合ってくれるあたり、相当なお人よしなのだと思った。
口を開くわけでもなく、彼女がじっと見てくるので、俺は手を振ると笑顔を見せた。
『…………』
彼女は諦めたのか溜息を吐き、俺の隣に来ると真剣な瞳で俺に訴えかけてきた。
おそらく、今回の依頼の内容が知りたいのだと俺は理解する。
「今回、俺たちが受けた依頼は隣街の【リンダス】にある牧場、そこを荒らすワイルドウルフの群れの討伐だな」
依頼を出した牧場は近くに森があるので、森の中のモンスターが出てくることがある。
今回討伐しなければならないワイルドウルフは、単体でのモンスター評価はDランクなのだが、10匹までだとCランク、11匹以上の群れならBランクに分けられている。
テレサは元々Sランクパーティーに所属していた手練れなのでこの程度のモンスターは問題ないだろう。
俺がそんな風に考えていると、テレサは疑惑の視線を俺に投げ掛けてきた。
「もしかして、俺が足を引っ張るとか考えてないか?」
俺の言葉に彼女はゆっくりと首を縦に振る。テレサに冒険者ランクを教えた覚えはないが、どうやら弱いと思われているようだ。
「安心しろって、俺はルクスよりも強いから!」
そう言ってサムズアップするのだが……。
『…………』
そんな俺を、テレサは可哀想な者を見るような目で見るのだった。
「それじゃあ、手筈通りに行くからな」
数日を掛けて、隣町のリンダスに到着した俺たちは、早速依頼を果たすべく牧場を訪れた。
俺たちが姿を見せると、牧場主は嬉しそうに手を取った。
ワイルドウルフの数が多く、毎日家畜が食われていくため、気が気ではなかったとのことらしい。
そんなわけで、俺とテレサは早速ワイルドウルフを討伐すべく牧場に陣取ったのだ。
作戦は、俺が前に出て剣を振りワイルドウルフを引き付けるので、テレサは俺を魔法でサポート。可能なら攻撃にも参加してもらう。
元々組んでいたわけではなく、急増コンビなのだからあまり細かく取り決めても無駄という判断もある。
『グルルルルル』
「おっ、ようやく来たな!」
森から出てきたワイルドウルフを視認する。
その数は思っていたよりも多く、ざっと見えるだけでも20匹以上。
「さて、今夜は狼鍋かな?」
牧場主にでも解体してもらって、今夜は美味い肉にありつこつと考えていると……。
「どうした?」
テレサが俺の服の裾を引っ張ってきた。
見上げるような視線は何かを訴えかけている。
「どうした? トイレか?」
ぶんぶんと首を横に振る。
「とりあえず、あいつらを片付けるのが先だ。サポート頼んだからな!」
そう言って指を剥がすと彼女は口を開くが言葉は漏れてこない。
「さて、それじゃ軽めの運動といきますか」
俺はロングソードを抜くとワイルドウルフへと向かって行った。
「はっ!」
『キャウンッ!』
目の前のワイルドウルフの胴体を斬り裂き絶命させる。
俺から距離を取り、警戒しながら隙を見ては飛びかかるのを繰り返している。
もっとも、その隙は俺が意図的に作ったものなので、実際は誘いでしかないのだが……。
『キャウン!』
『キャウン!』
『キャウン!』
ワイルドウルフは俺だけを注意していればよいわけではない。
遠距離からピンポイントで魔法を放つテレサこそ真の脅威だろう。
彼女は表情一つ変えることなく杖を振るうと、一度の魔法で必ず一匹のワイルドウルフを倒している。
「俺も負けてられないな」
この場はテレサの独壇場かもしれないが、一方的に世話になっていると思われるのは心外だ。
『ウオオオオオオオオオ!』
その瞬間、一際大きな個体が現れた。おそらくあいつがこの群れのボスに違いない。
「テレサ! 俺があいつを倒している間、一人でもいけるか?」
大声で後ろに向かって呼びかけると、彼女ははっきりと頷いた。
『ガルルルルウルッルウル!』
向こうも同じことを考えて……、いや俺の背後にいるテレサを脅威に思って排除しようと進んできているようだ。
「通りたければ俺を倒してからにしろっ!」
左右からはワイルドウルフが、正面からはワイルドウルフリーダーが攻撃を仕掛けてくるのだが……。
「よっ! はっ! ほっ!」
まず左右のワイルドウルフの攻撃を紙一重で避けながら抜いておいたショートソードとロングソードを二匹の腹に差し込み、勢いを利用して腹をかっさばいた。
『ガルルルルルルルルルルルルルッ!』
続けて突進してくるワイルドウルフリーダーの牙を剣を交差させて受け止める。
でかい身体をしており、百キロはありそうなのだがその突進を受けても俺は一歩も下がらなかった。
「獣脚は小回りが効かないからな、一度止めてしまえばこの通り」
ワイルドウルフリーダーは何をされたかわからないだろう。
俺は足を止めた目の前のモンスターを一瞬で何十回も斬りつけた。
『ガ……ウ……?』
「ふむ、まあまあの運動になったかな?」
俺が振り返ると、ちょうどテレサが残りのワイルドウルフを討伐し終えたところだった。
どうやら怪我もなく片付いたようで、俺は彼女に手を振ると近付いて行くのだった。
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