第6話 森で迷ってみた

 鬱蒼とした森を俺たちは歩いている。


 木々は高く、日差しが遮られているので周囲の気温も下がっている。


 途中、沼を抜けてきたので俺もテレサも下半身が泥まみれになっていた。


 立ち止まって周囲の様子を探っていると、テレサがじっと俺を見ていた。その視線は『これからどうするつもり?』とでも訴えているようだ。


「うん、やっぱり森を突っ切るのは失敗だったな!」


 そんな彼女に俺は笑みを浮かべて話し掛けた。


 ワイルドウルフ討伐から数日、俺たちは自分たちが本拠地にしているカプセの街へと戻っている最中だった。


 行きと同じ道を通れば既に到着していてもおかしくないのだが、ただ行って帰るだけではつまらない。


 そう判断した俺は、途中にある森を突っ切ってみることにしたのだ。


 冒険者ギルドにある地図で見ていたのだが、この森はさして広くもない。上手くいけば数時間で抜けられて時間を短縮。夕方にはカプセに戻れると考えたのだ。


 俺が遠い目をしている間にも、彼女から抗議の視線は止まない。


 俺が躊躇うこともなく森に入ったことから道順を知っていると安心していたのだろう。


 最初は普通に俺を見ていたテレサだが、あやまって沼に落ち、下半身が泥まみれになった後あたりから視線が鋭くなってきた気がする。


「こうなったら仕方ないな。今日はここで休むことにしよう」


 食糧は十分持っているし、さっきも言ったが小さな森だ方角を確かめながら突き進めばその内抜けることができるだろう。


 テレサは首を縦に振ると、すぐそこの木の幹に身体を預け目を閉じる。マントを身体に巻きつけると、あっという間に眠りへと落ちた。


 俺はそんな彼女をしばらく見ていると、


「さて、俺も休む前にやることをやらないとな」


 そう言って森を歩き回るのだった。




「少し時間がかかったな……」


 ゆっくり眠ることができるように、敵が近付けばわかる仕掛けを周囲に張り巡らせ、ついでに食べられそうな植物を収集した俺は、テレサが休む場所へと戻った。


「あれ? いないな?」


 先程まで、テレサは寝ていたはずなのだが、木の幹には誰もいなかった。


 俺は彼女が寄りかかっていた木の幹に触れてみる。まだ温もりが残っている。


 どうやら、目覚めたテレサが自分の足でどこかへと行ったようだ。


「まあ、この辺のモンスターなら何とでもなるんだろうけど……」


 それでも、万が一ということもある。俺は彼女を探しに向かうのだった。



          ★


 —―チャプチャプ――


 生き物の気配が希薄となった森の中、テレサは一糸まとわぬ姿になると布で身体を拭き汚れを落としていた。


 先程まで眠っていた彼女だったが、綺麗好きなこともあって身体が汚れた状態ではゆっくり身体を休める気分にはならなかったのだ。


 少し経ってから、ガリオンがその場から離れた気配を感じたテレサは、水源を求めて森を歩き、泉を発見したのだ。


 テレサは水浴びをしながらここ最近のことを思い浮かべる。


 突然、Sランクパーティーを追放されたかと思えば、その日の内に妙な男が接触してきた。


 パーティーを追い出されて呆然としていた自分に、いきなり揚げドーナツを差し出したかと思えば、パーティーを組むようにと誘ってくる。


 翌日には朝から宿泊先まで訪ねてきたり、強引に依頼を受けて連れまわしたりしてきたのだが、お蔭で落ち込んでいる暇が一切なく、気が付けばこれまで通りに依頼をこなしていた。


 テレサは最初、ガリオンのことを、所詮は口だけの男だと思っていた。


 ワイルドウルフは決して弱いモンスターではない。前のパーティーで組んでいた時も数ヶ月前に遭遇して戦ったのだが、ルクスですら一撃で倒してはいなかった。


 ましてや、今回は敵の数も多く、他にワイルドウルフリーダーまでいたのに、それすら瞬き程の間に討伐していたのだ。


 最初はただの馬鹿だと思っていたテレサも、実力という一点については彼を認めつつある。


 一見、無神経な振る舞いをしているようだが、常にテレサのことを気にして、何かあれば即座に前にでようとする気配を感じている。


『…………』


 テレサは溜息を吐く。ガリオンと行動をともにするようになってから急速に回数が増えていることは自覚している。


 いつまでも裸でいると風邪を引きかねない。彼女は湿っている衣服を着けなおすと、元の場所へと戻っていくのだった。


          ★

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