第60話 再開

 スキップでもはじめそうなアメリアの後に誠は続いて進む。


「楽しそうですね」 


「そう?」 


 軽快な足取りでアメリアはパーラの背後に回り胸に手を回す。そして両手でパーラの胸に手を回した。


「何すんのよ!」 


 パーラには叩かれてもアメリアは気にする様子も無くパーラの胸を揉みながらそのまま会議室に入る。


「よう、ラストは俺に任せろよ」 


 そう言いながら新藤は冊子をアメリアに渡す。そこでアメリアが明らかに不機嫌そうな顔になるのを誠は見つめていた。


「何よ、これ」 


「台本だろ?他に何に見えるんだ?」 


 新藤はあっさりそう言うと誠とパーラにもそれを渡していつものモニターの並ぶところに腰掛ける。


「当然だな。これでかなりまともになる」 


 そのカウラの言葉にランまでもがうなづいていた。アメリアの台本を没にする。確かに思い出してみれば小夏とランのキスシーンを入れると言うラストの案はさすがに無理があった。


「ちょっと!私の立場は!」 


「今まで好き勝手やったんだ。十分楽しめただろ?」 


 冊子を開いて視線も向けずにランがそう言い切った。アメリアはがっくりと肩を落とす。


「とりあえず……台詞……」 


「どうせ私の出番は無いわよ!」 


 誠が声をかけるが無視するアメリアは頬を膨らまして部屋の隅に向かう。


「あ、いじけた」 


「しょうがないわよ」 


 サラとパーラもいつものようにはかばってくれないと知ってアメリアはさらに部屋の隅に座っていた椅子を寄せる。


「そう言えば西園寺は?一緒じゃないのか?」 


 そんな何気ないカウラの一言にアメリアが反応した。彼女はそのまま立ち上がるとパーラとサラの手をつかんで引っ張る。


「何すんの!」 


 サラが暴れているが寄せた耳にアメリアが一言二言。すぐにサラの目が輝いてくる。


「あのー?」 


「ああ、誠ちゃんは聞いちゃ駄目!」 


 手を振るサラ。パーラも自然とアメリアのつぶやきに耳を貸す。


「なにがしたいんだか」 


 カウラはそう言うと一人カプセルの中に体を沈めた。誠もアメリア達の奇妙な行動の意味を詮索するのが無理だと悟ってカプセルに体を横たえた。


「あ!そう言えば小夏ちゃんはどうするの?」 


 サラの言葉に誠は新藤を見た。相変わらず目の前のモニターを凝視している。


「アイツのボイスサンプルは十分取れたからな。俺が編集で何とかするよ」 


「だったら全員のでやってくれれば良かったんじゃないか?」 


 カウラが愚痴る。誠も苦笑いを浮かべながら一度ヘルメットをしたもののそれを外して起き上がる。


「そう言えば西園寺さんは……」 


 誠は戻る気配の無いかなめを思い出した。その言葉にアメリアとサラとパーラがいかにもうれしそうな顔で誠を見る。


「……どうしたんですか?」 


 明らかに変な妄想をはじめた時のアメリア達の瞳が輝いている、誠は自然と背筋が寒くなる。


「そうだな、西園寺がいないとはじめられないな。アメリア、呼んで来たらどうだ」 


 こちらも上半身をカプセルから持ち上げているカウラの声。今度はアメリア達の視線はカウラに向く。


三人に浮かぶ明らかに何かをたくらんでいる笑い。


「……気味が悪いな。西園寺が何かやってるのか?」 


「大丈夫。もうそろそろ来ると思うぞ」 


 突然そう言ったのは新藤だった。アメリアが特別うれしそうな顔をする。


「新藤さん!もしかしてのぞいてたの?一階の北側の女子トイレの奥から二番目」 


「バーカ、勘だよ勘!それにしても細かい指定だな。いるところがわかるならお前等が連れて来いよ」 


 そう言う新藤をパーラが汚いものを見るような目で見ている。


「なんだよ!信用ねえな!見て無いって!女子トイレには監視カメラは無いから。付けてようものなら女子連に殺されるよ」 


「はいはい!わかりました」 


 手を叩くアメリアを新藤がにらみつける。


「本当に見てない……あっ来た」 


 新藤の言い訳にあわせるようにいつもよりも明らかにテンションの低いかなめが入ってくる。そしてかなめは誠を見るなりすぐに視線を落としてしまった。


「ねえ、何をしていたのかな?」 


「タバコだよタバコ」 


 再びうれしそうな視線をかなめに向けるアメリア達。


「あ、トイレでタバコなんて感心しないわね……こんなところに!」 


 そう言ってサラはかなめのスカートのすそを指差す。かなめは慌てて視線を落とす。


「なんだよ!何も付いてないだろ!」 


 その言葉に飛び跳ねそうな反応を示すかなめ。誠とカウラはわけも分からず見守っていた。


「あのさー。人数そろったんだからはじめろよ」 


 奥のカプセルからの声。ランが痺れを切らしたのは間違いなかった。


「じゃあ深くは詮索しないからそこのカプセルに……」 


「詮索しないならはじめから言うんじゃねえよ」 


 アメリアの言葉にうろたえて見えるかなめ。彼女はなんどかちらちらと誠を見ていた。その頬が赤く染まっているのを見て、誠はいつものように酒を飲んでいたのだろうと安心してヘルメットをかぶりバイザーを下ろした。


「でも本当に何をしていたんだ?」 


 カウラの言葉をかなめは完全に無視する。


 バイザーを降ろした画面には夕暮れの河川敷が写されていた。魔法少女のコスチュームの小夏、サラ、ラン、そしてかなめ。その隣には悠然とパイプを吹かしている明石の姿がある。さらになぜかカウラ、リアナ、嵯峨の姿まであった。


「ランちゃん……」 


 夕焼けの中、小夏を見つめて立ち尽くしているラン。手を伸ばされてもしばらく躊躇していた。


「貴様も私も裏切り者ってわけだ」 


 そう言ってかなめは小夏とランの二人の手を握らせた。


「機械魔女が機械帝国に逆らうとは……いつか消されるぞ」 


 ランの搾り出した言葉にかなめは笑みを浮かべる。


「所詮アタシは機械だ。寿命がくれば壊れるものさ」 


 そう言うとかなめはランの手を握り締めた。


「よし、小夏だけじゃ心もとないものね!」 


 そう言ってサラがその手を上に載せる。


「プリンス!」 


 小夏が誠を見つめてくる。全身タイツの誠もそこに手を乗せた。


「いつか……きっと救えるよ。諦めなければ!」 


 小夏の言葉に全員の決意の表情が画面に映る。それを満足げに見つめる明石。そこで画面が途切れた。


「あれ?これだけ?」 


 小夏は起き上がって新藤を見つめた。


「あっさりしすぎてないか?それともいろいろといじるのか?」 


 小夏を無視して画面を見つめている新藤にランも声をかける。


「まあ、そんなところかな……」 


「なんだよ、これだけならオメエが編集してつくりゃあ良いじゃねえか」 


 ようやくいつもの調子に戻ったかなめが愚痴る。


「さあ、それじゃあ見せてもらうわよ。新藤さんの実力と言う奴を」 


 挑発的な言葉のアメリアだが、新藤はまるでかまうつもりは無いと言うように相変わらず画面をのぞいていた。


「そう言えば西園寺はさっき……」 


「カウラ。何も言うな……ってその目はなんだ!アメリア!」 


 かなめは再びニヤニヤしているアメリアを怒鳴る。


「寂しいのね、そうなのね、かなめちゃん」 


 その言葉を聞くと顔を真っ赤にしたかなめはカプセルから飛び起きた。部屋を出て逃げ出すアメリア。猛然と襲い掛かるかなめ。


「元気があっていーねー」 


 もはや呆れたと言う状態を超えたと言うようにわらうランの姿がそこにはあった。誠はアメリアとかなめの行動の意味がわからずに呆然としている。


「何か言いたそうね」 


 顔を出すサラ。誠は頷くが口に手を添えて忍び笑いをするだけでサラは何一つ答えるつもりは無いように見えた。諦めた誠は廊下の外のかなめの叫び声を聞きながら苦笑いを浮かべていた。

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