第2話 いじめのターゲット

その日の放課後、予定通り野原、金子、垣口、大家と食堂でチキンとポテト、ドリンクを買い、おしゃべりの時間となった。

剛「みんな改めてよろしく」

垣口「よろしくー」

野原「くちゃくちゃ食うなよな、金子」

金子「お?」

大家「お?じゃねえよ笑」

野原「ところでさ、最近布村調子乗ってね」

垣口「布村?」

野原「そう、布村、ほら、基本一人でいるけど、たまに村木たちと一緒にいるやつ、休み時間とかうるせえ」

金子「確かに最近目につくな」

野原「シカトしちゃおうぜ、あいつ」

垣口「俺たちがシカトしても、そもそもそんな接点ないぜ」

野原「村木を唆す」

大家「何それ、おもろ」

野原「そんじゃ明日からよろしく」

垣口「うぃー」


食堂での会話の後、本当に野原たちは村木たちも巻き込み、

布村をいじめのターゲットにした。

布村がことあるごとにクラスの誰かに話しかけてもみんなシカト。

数日後には、元々あまり喋るタイプではなかったが、今では一言も発しなくなった。

とどめを刺すかのように、授業中も休憩時間も本人にギリギリ内容が聞こえない程度で、みんなが布村の陰口を叩くようになった。

俺だけなのか、この状態が異常であると感じることが。

そう思ったら、我慢できず、ある休み時間に野原とこんなやりとりをした。

野原「あいつ、布村まじ調子乗ってるよな」

剛「ん?」

野原「調子乗ってるから無視しとこうぜ」

剛「ん?なんで?」

これっぽちのやりとりだったが、野原のいじめスイッチをオンにするには、十分なやりとりであった。

この日の数日後、布村は、学校に来なくなり、そして転校した。

そして、野原の次のいじめのターゲットは、そう、俺だった。


まず、クラスメイト全体から、嫌な視線を感じ始める。

聞こえるか聞こえないほどの声で自分の容姿の悪口が周りから発せられる。

休憩時間には、やはりシカトされる。

LINEで集合場所を言われても、すっぽかされる。

休日の遊びの招待も自分だけもらえない。

最近買ってもらった高めのボールペンが、ある日筆箱から、無くなっている。

教室の後ろにある個人毎のロッカーのダイヤル式南京錠の暗証番号が変更されていて、開けられなくなる。

下駄箱の上履きが半分消えてる。

こういった陰湿極まりないいじめが、5月の下旬ごろから1ヶ月続いた。

最初のうちは、相手にせず気にせず、日々を黙々と過ごしていればいいやと、考えていた。

しかし、日々常態的に行われる陰湿ないじめは、次第に悪化していく。

7月になったあたりで、遂に俺の限界は頂点に達した。

そして、金曜日の夜、仕事から帰ってきた母親と買い物帰りの祖母にこれまで受けてきたいじめの数々を赤裸々に語った。

母「何それ許せない!」

祖母「徹底的に立ち向かうわよ、安心しなさい、もう大丈夫だから」

俺は、その時知らぬ内に大量の大粒の涙を流していた。

1ヶ月ひとりだけで耐え抜いたいじめの数々は、想像以上に堪えたのだ。

母「即刻担任に連絡するわ」

祖母「親戚にテレビ局の人がいるから、学校側が何も行動に移さないなら、いざとなったらマスコミに言いふらすって言ってやるわ。学校は、公にされることが一番嫌だからね。翌年以降入学者がゼロになったら大変だからね。」


こうして、思い切って家族に打ち明けたことは、

俺がこのいじめを切り抜ける第一の突破口、風穴を開けるものとなった。

後日、担任の幸三と母、祖母、俺の四者面談が学校で行われた。

俺は、家族に打ち明けたことをそのまま先生にも話した。

翌日以降、順次いじめの主犯格級に個別で面談をしていくこととなった。

一時の平穏を得た俺だったが、ちくっただろと言われる一抹の不安もあった。


その後、野原たちと幸三先生との個別面談が約束通り次々に行われた。

結果として、明から様なクラスでのいじめはなくなった。

だが、野原たちの持つクラス内での異様な威圧感と存在感は、いまだ健在で、

俺が心から学園生活を楽しめる感じは、全くなかった。

授業で二人1組になる際など、奇数の際は、当然最後の一人となったし、

奇数で組むときは、他のメンバーに嫌な顔をされるのが、毎度恒例だった。

これは全て、陰で野原たちが糸を引いているのは、明らかだった。

つまり、家族にいじめを打ち明けた結果、露骨ないじめはなくなったが、より陰湿な、水面下でのいじめは、まだ続いており、問題解決には至っていなかったのだ。


ここで俺が次に取るべき行動は、再度家族にこのことを相談し、学校側に連絡し、対応策をとってもらう事、もしくは別の方法。

そして、俺が選択した行動は、家族への相談ではなかった。

それは、「部活」に入部すること。

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